「テクノロジーを
俯瞰して見る力」を養うには。
―――著書の中で、「テクノロジーを俯瞰して見る力が必要だ」と書かれていますが、そういう力をどのように養っていけばいいのでしょうか。
齋藤氏:そこがまさにポイントだと思うのですが、「俯瞰して見ることを意識しておくということが必要」だと思います。その上で、ムーンショット構想力じゃないですけど、みずからの元に情報が集まるようにしておかなきゃいけないと思います。
みなさん検索をする時や「いいね」をつける時に、どこにいいねをつけると次からどういう情報が上がってくるかっていうのは感覚的にわかってきていると思います。Amazonで買い物をする時も、体重計を見ると翌日体重計ばかりずらっと並ぶっていう。だとすると、「自分が何に対して発信をするか」というやり方によって、自分の元に集まってくる情報はコントロールできると思っています。それは多分人間が身に着けた超能力の一種だと思うんですけれども、感覚的にわかっているそれをうまく利用する、意識をしておくだけで随分変わるんじゃないかなと。
2つ目のポイントは、「自ら発信をする」ということです。GoogleもFacebookもSEOがあって、自分が何を発信したかによってどんな情報が集まって来るかが決まる部分があるので、何を発信するかというのが非常に重要になってきていますよね。一方で、時々それを壊してみるという作業も必要だと思うんですけども。
―――「いろんな分野の境が溶けていって融合していく」と書かれていますが、それは今後どのように融合していくのでしょうか。
齋藤氏:『エクスポネンシャル思考』は特にビジネスの世界について書いているのでビジネスの世界でいうと、例えば今まで製造業と定義していた人たちが「製造業ではなくなる」とか。日本の産業の問題は上流から下流までが長いというケースがすごく多いと思っています。例えば、システムをつくる人たちがシステムをつくって、それを売る。サービス業者は、それをもとにサービスをするという。新たなサービスが出てきた時に、サービス業者はシステムがないとできないし、システム業者はサービス業者から発注がないとそれをつくらない、という社会の停滞が起きているジレンマがそこにあるんじゃないかと。
でも最先端の企業を見てみると人工知能とかAIとか機械学習的なものもあると思うんですけれども、要はもうデジタル化されているので常にアップデートして成長していくようなビジネスモデルをつくっている。すごく短くて自社内にサービスを展開しながらそこをどんどん改善していくプロセスがあると、今まで業種業態だと思っていたものが全然違うものになる。一つの生き物みたいなものしか生き残らないような状態になってきているのかなと。Amazon一つ見ていても、すべて中に吸収してしまおうとしているような企業もあるので。
生鮮食料品を売るというのはスーパーの仕事だと思っていたものが、なぜかAmazonが生鮮食料品を売るようになるとか、ホールフーズを買収しましたみたいなことが起きて、だんだん混ざってくる。自動車業界も特に顕著ですよね。ウーバーみたいな会社が来て、EVになった途端つくることが全然難しくなくなってきたところもあると思うのです。
―――映画とかの影響もあると思うのですがテクノロジーが進化していくとそれを戦争に使うとかそういう話になりがちですが、本当は持続的に生きていくための物事に使っていけば、すごくいい話になりますよね。
齋藤氏:そう思います。テクノロジーって強い人にはあまり必要なくて、弱い人のために使われてきたというところがあって。そもそも人間がなぜテクノロジーを利用できるようになったのかというと、ホモサピエンスはその前のネアンデルタール人と比べて個体としては弱かったけれども、テクノロジーを使いこなすことによって生き延びたということがあると思います。進化の過程上、身につけた能力だと思います。だとすると、我々は今テクノロジーを弱い人を助けるために使うべきです。
人間は40歳を過ぎてくると、人間の進化の過程で想定されていない今までなかった時代を生きています。40、50歳を過ぎてくると、生活習慣病とかって自分の力で治せなくなってきていますよね。そういうものこそテクノロジーを使って治すとか、記憶力が悪くなってきたらテクノロジーの力を使うとか。例えば、老年期ほどテクノロジーを使うべきであるし、今は何となくテクノロジーは強い人のものと思われているのが、それは我々がまだ未熟だからなんだと思いますね。
―――そういう意味では、テクノロジーとサステナビリティというものの関係性は密接ですよね。
齋藤氏:サステナビリティというような、持続可能な社会をつくるというのは人間の究極ゴールの一つでもあると思います。そこに向かってうまくテクノロジーを使っていくということですね。CSRみたいなレベルではもう地球は持たないとすごく感じていると思うので、であれば企業もサステナビリティそのものが本質になっていくかなと思います。課題と解決法、サステナビリティとエクスポネンシャル思考という、そういう位置づけかなと思います。
「俯瞰して見ると様々なものが見えてくる」(斎藤氏)
「何ができる」と夢見て
会社に入ったのか
思い出してほしい。
―――「日本企業ももっと考え方を変えてやらないと、世界の企業にやられちゃう」とおっしゃっていましたが、日本企業の現状についてはどうお考えですか。
齋藤氏:日本企業にがんばってほしいというのは一つありますし、日本から世界を変えるようなイノベーションを起こしてほしいという強い想いはあります。とは言えそれを究極的に考えると企業が何が何でも生き残っていなければならないのかというと、そんなことはないと思っています。社会全体がもっとフレキシビリティになっていくべきで、今はその過渡期だと思いますね。「そんなことしているとうちの会社つぶれるんですけど」という話があるんですが、別につぶれてもいいんじゃないかと。「社会のためになっているかどうかを、まず考えたほうがいいんじゃないですか?」って。そうすると企業の存在意義が終わっている会社というのはいっぱいあるかもしれないし。
―――存在意義を再設定しムーンショットで構想して、そういう風にやっている会社がやっぱり伸びているということですよね。
齋藤氏:そういうことですね。私が開催しているワークショップの時も「根源的な価値、バリューは何ですか」と遡りますが、例えば目先の請求書をもらうとか判子を押すとか、そういうのはどうでもよくて、本来の根源的な人間にとってどういうバリューを提供しているのかっていうところまで遡ると、本来やるべきことは全然違うことになってくるんではないかな。そこに対して今から手を打たないと、10年後にも20年後にも生き残っている企業にはそもそもなれないであろうという考え方があります。
―――企業のパーパスを再定義して、ピボットで、その軸のもとにいろんなことをやっていってスケールをしていく必要があるということですね。
齋藤氏:そうですね。新卒の時を思い出していただいて、「どういう想いで会社に入ったか」、「何ができると夢見て入ったのか」というところは思い出してほしいなと思っていて。「日報を書くためにその仕事をやっているわけではないでしょう」と。すごく夢があった時を思い出していただくと、「この会社に入ると、人と人をつなげることができる」とか強い想いがあったんじゃないのかなと。「人の人生にかかわれる仕事です」とか「社会の弱者を助けることができる」とかいろいろあると思うんです。それを思い出していただくと、「だったら今やっていることは、これじゃなくてもいいんじゃない?」っていうのが見えてくると思います。その強い想いまで遡ると、世の中にはお金もモノの人も溢れていて、効率的に使うこともできるので、それを会社という仕組みにこだわらなくてもよくなるのかなと。