無数のネットワークの中に
自分を置いておく。
―――もしかしたら二つに分かれるのかなと思っていまして、一つは「どんどんスケールアップして」という考え方と、もう一つは「狭いコミュニティをいくつか持とう」とする考え方。結果的にはどっちもスケールするようなことになるかもしれないんですけれども、そういうふうに二分されていくのかなと思ったんですけれども。
齋藤氏:そう思いますね。(Rashiiでも取材した)ボーダレス・ジャパンさんが言っていてすごくおもしろいなと思ったことは、開発途上国で一人を採用しようと思ったら「給料は低くてもいいから全員を採用してくれ」と言われたことがあったと。今までは日本だと給料が高いとか貯蓄を持っているとかがセーフティーネットになるんですけども、それは今までの常識ですよね。貯蓄があってもそれがセーフティーネットになるかはわからなくて、それよりその人たちは「コミュニティの中にちゃんと自分を置いておく」ことがセーフティーネットになっていると感じるからお金をもらってもしょうがないと。
コミュニティ全体でちゃんとつながっていることが重要みたいなことを言っていて。まさにそれだなと思ったのは、小さい企業とかプロジェクト単位もいかに自分の周りにコミュニティをつくりあげてその中心にいるか、コミュニティの中の無数のネットワークの中に自分がいれば常に誰かとつながっていて、そしてお互いに助け合うことができる。今までの貯蓄によるセーフティーネットの概念とちょっと違ったものになってくるかな。
一方で、企業は大きな会社ってスケールしていかなくてはいけないので、大資本になり効率化を求めるっていうのは、今後も多くなっていくと思います。そこは最後はロボット化していくだけなので、最終的に大企業はロボットになっていくっていうことだと思います。効率化を求めて、それは規模の論理で大量生産するという部分はそうしたほうがいいでしょうし。その中にも小さいコミュニティは存在するし、外側にも存在するし、その中を人が行き来するようになればすごくおもしろい。
泡がボコボコボコボコでてきて、途中でつぶれるものもあれば、すごく大きくなっていって上に浮かんでいっちゃうものもあると思うんですけれども、浮いていっちゃった先は大企業になり、スケール化していくんでしょうけども。バブルがいっぱい生じている中にいると常にどこかのバブルには属していられる、そういう状況をつくりたいなと。
齋藤氏:今すごく機能しはじめているのが、10億~20億ぐらいの規模のマイクロベンチャーキャピタル。その人たちがコミュニティのハブになって、周りに投資をして、資本でつながったコミュニティができて、そのコミュニティの中でリソースの共有が行われたり、助け合いが行われたり。泡がいっぱい生じている状態、泡が重なり合って、どこかでそこからポンって変数が生じた時にイノベーションが起きてくるっていう状況が社会的にできてきていますね。
大企業に属していると意外とその論理が理解できないと思うんですけども、そっち側に入ってみるとそれはそれで回っている経済があるし、何か今までの感覚とは全然違うものが回っているっていうのに気づけると思うんですよね。非効率なんですけども、非効率の中にイノベーションの種がいっぱい生まれてくる。大企業もそれを否定するのではなく一緒にやればいいだけの話ですよね、起業家を応援してあげたり。
私がすごく強いなと思うのは、地方に行くと生き物みたいな会社がある。地方のその都市の全部の産業を持っていますというような会社です。コンビニも社会福祉もやっていますというような生き物みたいな会社。組織体はなくて小さな泡の塊なんです。資本関係であり、志でつながっているんですよね。あと地域でつながっている。
ソフトバンクも今すごく似たような感じで。孫さんという軸があって、資本関係があって、そして「情報革命を起こす」というすごく強い志でつながっているのがすごくおもしろいなと思っています。だからこそ強いんだと思いますよ。生命体そのものになっていっているみたいな。
―――私たちが取材してきた企業は熱い志をみんなで共有されていますね。
齋藤氏:志とか想いですよね。孫さんも『ビジョンファンド』ってつけているのも、ビジョンとイコールなんだと思っています。弟さんも『ヴィジョネア・ベンチャーズ』っていうファンドをつくっていたんですけども。みなさん結び付けているのはビジョンなんじゃないかな。そういう強い想いがあるんじゃないかな。
最近Amazonが今後なくなるみたいな記事があったんですけど。Amazonがなぜあそこまで伸びているかというのは、「自分が無くなると思っているから」だと思います。成長し続けるしかない。ジェフベゾスさん自身が「多分5年後に存続しているとは思っていない」そういう感覚で経営しているからこそ成長するし、「自分がいなくなったら恐らく会社はなくなるだろう」、「分散、分裂してまた次の生態系に変化していくんだろう」ということを考えているんじゃないかなと思うと、それが自然な姿ですよね。この100年くらいがちょっとあまりにもいい時代だっただけで。そのスピードが、新陳代謝のスピードが世の中すごく上がってきていますよね。
未来に対して、責任を持とう。
―――お話を伺っていて、未来に対して「自分がどういう心持ちで向き合うか」が大切だなと思ったんですけれども。
齋藤氏:「未来どうなると思う?」っていう話はすごく多いんですけど、「未来をどうしたい?」っていう質問に変えたほうがいいと思っていて。「10年後の未来どうなっている?」ではなくて、「10年後の未来どうしたい?」っていう。まさにシンギュラリティユニバーシティで言っていることってそういうことで、「未来は我々がつくっていくものなんだから、それに対して責任を持ちましょう」って。「だったら見ているだけではなくて、やろうよ」っていう、そこだと思います。だから未来に対して責任を持つとなると、今までのしがらみとか人生の道筋、既成のライフコースみたいなものも意味がないものになってきて、全員が未来志向になれるんじゃないかなと思います。
未来志向になった瞬間まずやらなければいけないことは、「学ぶこと」になる気がします。常に学び続けるという状況、考え続けるというか。知識として学ぶんじゃなくて。例えば、テクノロジーを知らないと未来に対して責任を持てないので、テクノロジーを学ぼうって気になりますし。やっぱり勉強をしはじめる人、未来志向の人って多分、何歳になってもずっと勉強し続けるってところがあるとすごく思います。