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川崎フロンターレ どうしてサッカークラブがそこまでやるの? 教えて井川さん。
<井川さんプロフィール>

明治安田生命J1リーグにおいて、2017、2018と連覇を果たした川崎フロンターレ。多彩なパス、アイデア溢れるサッカーで多くの人を魅了する一方で、おもしろいことを数多く仕掛けるクラブとしても有名です。一見サッカーとは関係がないようなホットな話題をうまく事業に活かしコラボレーションすることで多彩な価値を提供し、サポーター数や収入の拡大など経済価値と社会価値の向上につなげています。そこには、人気がなかった時代を乗り越えてきたクラブの「川崎」への想い、パーパス(=存在意義)がありました。「川崎フロンターレ」というコミュニティだからこそ生まれる独創的な価値を、いかに提供し続けているのか。川崎フロンターレと共に20年歩み続け、2018年から人気クラブのプロモーションを手がける川崎フロンターレ集客プロモーショングループの井川宜之さんに、クラブの独自の考えをお聞きしました。試合当日も井川さんに密着し、サッカークラブの枠を超える「川崎フロンターレらしい」強みに迫ります。
取材・文:吉岡崇

「サッカークラブらしくない」
クラブをつくった共通の夢。

「うちは、サッカークラブらしくないと思いますよ」(井川さん)

試合当日の朝、等々力陸上競技場でご挨拶した後の井川さんのこの言葉こそ、私たちが川崎フロンターレの取り組みについて考察したいと考えた理由そのものでした。「本業のサッカー以外にも多角的に取り組んでいる川崎フロンターレには、どんな想い、狙いがあるのか」そこに迫りたかったのです。

川崎フロンターレは、等々力陸上競技場をホームにする「サッカーも事業も」個性的なクラブ。「サッカークラブ」という枠におさまらず、企業や行政と組んで次々に話題性のある仕掛けを実施するクラブとしてJリーグのファン・サポーターの間でも有名です。

事実、川崎フロンターレというコミュニティから生まれる多彩な価値の提供により、Jリーグが調査したスタジアム観戦者調査において「ホームタウンで大きな貢献をしているクラブ」として9年連続1位になっています。本業のサッカーで優勝、売上50億円突破と経済価値を高めながら、多様な社会価値を生み出しています。

川崎フロンターレらしさを深堀るために取材に伺ったのが2018年10月下旬。世界的スタープレイヤーのイニエスタ選手が所属するヴィッセル神戸との注目の一戦でしたが、川崎フロンターレ的にはコラボレーションパートナーであるロッテとハロウィンをテーマにした『ハロー!ウィン(勝ちよ 来い!)』イベントが注目を集めていました。ここにも当たり前のように「川崎フロンターレらしい」取り組みが、満載です。

選手の仮装への本気度がその一つ。クラブのバンディエラ中村憲剛選手や日本代表の小林悠選手をはじめ選手全員が登場し、一人ひとりのキャラクターにあわせた本気の仮装を毎日SNSにアップし、試合に向けた話題づくりを仕掛けていました。

試合当日も選手全員の仮装がスタジアム内のコンコースに掲示。どれも完成度が高い。

クラブ全体での実行力、細部にまでこだわった仮装の完成度。優勝を争うシーズン真っ最中に、サッカー以外の活動で選手を起用してここまでやり切るのは簡単ではないはずです。こうした企画を数々実現させている背景には、スポーツチームが中々定着しなかった「川崎」という町を拠点に、人気がなかった時期から試行錯誤してきた人たちの共通の夢がありました。

「僕らはクラブの人気がなかった頃からフロンターレにいて、その時に『いつかスタジアムを満員にしたい』と。事業部、強化部、そして昔を知る選手たち、サポーター、みんなで共通の夢を持っていました。ピッチの中だけで、結果を出せばいいわけじゃないという考えが、クラブとしてあるんです」

井川さんが話す人気がなかった頃というのが、初めてJ1に昇格しながら1年でJ2に降格してしまった2001年当時のこと。等々力陸上競技場の年間入場者数は3,784人と前年の約半分に減り、J2リーグに参入した1999年よりも少なくなるという厳しい現実に直面します。

当時、「富士通の企業チーム」だという認識が強かった地元川崎の人たちに応援してもらうために「川崎フロンターレとは」、「川崎フロンターレはどうあるべきか」について、クラブは自分たちを見つめ直したそうです。当時クラブ一丸で考え、たどり着いた「川崎フロンターレを通して地元川崎を元気にする」というパーパス=存在意義が、今の川崎フロンターレにつながっています。

『FOOTBALL TOGETHER』川崎フロンターレが掲げているこの言葉には、「地元の人たちに愛され、親しまれ、共に歩むすべての人たちの誇りとなるクラブになっていくこと」。「川崎フロンターレ・サッカーを通して、川崎の人を、町を元気にすること」。そして、「困難や課題、常識に共に立ち向かい、いっしょに喜びや楽しみをつくっていこう」という想いが込められています。

「川崎という町に、より誇りが持てればいいですよね。その手段がサッカー、フロンターレであって、それで町の人たちが元気になれば、笑顔になれば」

子どもから大人まで、選手を後押しする熱をスタジアムに生み出すサポーター。

強化と事業は、
両輪でやっていく。

当時の経験からサッカーだけで集客することの難しさを、身を持って知るからこそ今もいろいろな入口、接点をつくることを意識していると井川さんは言います。今回も「ハロウィン」を入口に、ファン・サポーターが参加する「仮装大賞」の開催、「お菓子の森」コーナー設置、等々力陸上競技場自体の仮装とプロジェクションマッピング、ハロウィンフード販売など、子どもから大人まで楽しめる企画がいくつも用意されていました。

試合以外にも来場者を楽しませる川崎フロンターレらしい工夫がたくさん。

サッカーという競技性、昇格・降格のあるJリーグの仕組みを考えれば、トップカテゴリーにいることが観客動員や収入、選手獲得などビジネスに直接つながるため、「成績」は重要視されます。そのためチームが強くなること、勝つことに注力し、サッカー以外での選手の稼働を極力少なく、開催するイベントをシンプルにするクラブもあります。それは各クラブのビジョンや戦略、予算によるため、良い悪いという話ではありません。

ただ、川崎フロンターレの場合は、「強化=勝つこと」と「事業=プロモーション、地域貢献」は両輪でやっていく、という考えがクラブ内で共有されていると言います。日本代表経験者を有し戦力的にもトップクラスですが、それでも勝つこと「だけ」が提供価値ではないと認識し、企業や行政とコラボレーションしながら多様な価値を提供することに川崎フロンターレらしさが凝縮されています。

実際にJリーグが公表している「スタジアム観戦者調査2017サマリーレポート」でも、直近の3年間での川崎フロンターレの観戦者の新規参入層構成比は21.8%とJ1トップの数字。「強化」と「事業」の両輪でやってきた成果が、着実に表れています。

新規参入層の大きな伸びにつながっている。
図:Jリーグ「スタジアム観戦者調査」を元に作成

等々力陸上競技場に訪れた人たちを川崎フロンターレのファン・サポーターにしてしまう、他のクラブとは一線を画す「らしい」企画は、どこから生まれてくるのでしょうか。川崎フロンターレ、そして井川さんへの密着マークは続きます。

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