Rashii

「食」と向き合う、をつくる。

白紙のレシピが
自分ごとになる体験を生む

―――サルベージ・パーティの取り組みについて教えてください。

平井氏:サルベージ・パーティの“サルベージ”は「救出する」という意味で、簡単に言うとサルベージ・パーティは、家で余っている食材をみんなで持ち寄って料理をして、できた料理をみんなで楽しむパーティになります。なので実は、当日までサルベージ・パーティのレシピは誰も分からないんです。その場でみんなで持ち寄って、集まった食材を見てシェフがメニューを考えるので。レシピがクックパッドさんみたいに、分量が1から10まで書いてあって、「このとおりにつくるとこの写真のようなものができます」というものではないんですね。なんとなくこういうものつくってくださいといった感じなんです。野菜の切り方とか、縦に切るか横に切るか、茹でるのはいつ茹でるのか、とか全部を委ねているんです。どうしてもわからなかったら「シェフに聞いてください」と言いますが、いわゆる料理教室ともちょっと違うと思います。だからつくる人は、結構タフですよね。結構大変なんですよ。

でも、自炊一切やったことがない大学生の男の子がいたり、料理が得意なおばあちゃんがいたり、お互いにはじめましてなんですけど、料理を通していっしょに会話したりして。おばあちゃんも「フードロス」という言葉を聞いたことなかったけど大学生から教わったり、大学生は包丁の使い方を教えてもらったり。そういうものを毎回目の当たりにしたり、アンケートをとってもフードロスについて勉強になったというよりも、そういう体験が楽しかったとか、食材に愛着が持てた、といったコメントを見ると、それが自分ごとだなと思って、手ごたえを感じています。そういう血の通った体験ってなかなかないと思いますので。フードロスの知識は、別にネットで調べれば出てくるわけですしね。

「答え」ではなく、
「考えるヒント」を提供したい

フードロスの学校

―――「サルベージ・パーティ」だけでなく「フードロスの学校」という市民講座も開いています。こちらの取り組みについても教えてください。

平井氏:フードロスの学校は、例えば全然関係なさそうな建築家の先生を呼んだりしています。というのも、僕がフードロスの勉強についてずっとやってきたんですけど、行き詰まっちゃったんですよね。フードロスって、「目の前の食べ物を残しちゃダメです」とか正論で語られる答えが多くて。という時に、農大でいろんな先生が集まっている場で聞いた話があって。鳥獣被害の話なんですが、イノシシってトウモロコシが大好物で、全部食べずに甘いところだけかじって捨てちゃうんです。それって人間の社会で言うとフードロス。でもイノシシはもちろん誰にも怒られない。でも人間もイノシシも同じ生き物なんですよね。生き物である人間が自分が美味しいと思うところだけ食べてあとは食べない、というのは実は本能のままなんですよね。そこに人の目とか道徳心とか入ってくると、食べ残さないという話になったり…。その話を聞いた時に、もちろん「食べ残していい」というわけではないんですが、なんかほっとしたと言うか。なんかそういうものなんだと思ったんです。そういう風にいろんな人の話を聞くと食に対する向き合い方が、今までと違う角度から見ることができるなと思いました。それで、いろんな方の話を聞いてみようと思ったんです。

先程のサルベージパーティもフードロスの学校もそうですけど、「こうするとロスが減りますという答え」を提示することはしていなくて。それは考えを委ねてるというか。こちらは考えるためのヒントをお渡しするというスタンスでいます。

血の通った体験でフードロスを身近にし、食材への愛着をつくる「サルベージ・パーティ」。フードロスの外からフードロスを違った視点で見つめ直す「フードロスの学校」。答えを渡すのではなく、考える機会と道具を提供する。どちらの取り組みも、みんなが「自前のフードロス論」を持つための活動だということがよくわかりました。最後に平井氏の今後の展望についてお話を聞いていきます。

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