Rashii

Meanings of Social Design in the Next Era 4Dカンファレンス2019オープニングイベント報告

これからのソーシャルデザインの意味

八重樫先生にお誘いいただいて4Dカンファレンス2019オープニングイベントに参加しました。「これからのソーシャルデザインの意味」と題して、様々な立場の方が社会とデザインの関係や、そこに発生する意味について語る、とても興味深いイベントでした。

10月20日、立命館大学茨木キャンパス。台風19号が去ったばかりで日本中の被災地の報告が共有されているさなか。こんな時だからこそ、ソーシャルデザインについて考え、被災地の復興、多様な社会問題に取り組む一助になれたらという、八重樫先生のご挨拶から始まりました。
続けてミラノ工科大学アレッサンドロ・ビアモンティ准教授のご挨拶があり、デザインの役割、デザイナーとしての責任について、今一度考えるときであると語られていました。

デザイナーの存在意義=パーパスを再考する。社会問題の解決にどのようにデザインが活用されたのか?社会問題を前に、デザインを活用する人や企業はどうあるべきか?このイベントをきっかけに考えていきます。

株式会社ソフトディバイス 株式会社ソフトディバイスhttps://www.softdevice.co.jp/

Wicked Problems“厄介な問題”を解決する。
そこにデザイナーの役割がある。
元国境なき医師団国際部門長 ウンニ・カルナカラ氏

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まず、国境なき医師団には原理があるとウンニ・カルナカラ氏。ヒューマニティー、公平、中立、独立、与益原則、道義的な観察者、誠実のプロ。その原理に従って、世界70ヶ国45,000人の医師・看護師が活躍しています。国境なき医師団のスタッフは同時にデザイナーとも言えます。例えば、エチオピアのとある地域で結核の発症率が高く、環境が悪いせいですぐに感染してしまう状況にあり、そのため建築家を呼んで、換気のいい家をデザインする…といったように、医療行為とは違ったアプローチで問題解決を行います。つまりそこにはデザインが活用されています。このように、複雑な問題、様々なステークホルダーが絡んだ問題は、いろんな視点があり、解決が難しい…Wicked Problems“厄介な問題”の解決にこそ、デザイナーの役割があるのではとウンニ・カルナカラ氏は語ります。

重要なのは人々を自然に行動させるNudge
※Nudge(ナッジ):直訳は「ヒジでちょんとつつく」。思わずしてしまいたくなるような工夫、意思決定をしやすくするプロセスのデザインのこと。

マラリアの迅速な診断テスト MFS Science マラリアの迅速な診断テスト
MFS Science

社会課題を前に、人々を自然に行動させるためにはNudge(ナッジ)の視点が重要だとおっしゃっています。ナッジとは、頭で論理的に理解せずとも思わずしてしまう、ついつい行動してしまう、感情的な動機をちょっと刺激して意思決定しやすくする、プロセスのデザインのことを言います。ここで例に上がっていたのは、マラリアの診断プロセス。顕微鏡を使った手間のかかる方法から、簡単で迅速なテスターに切り替えることで、むしろ診断の精度が上がったというもの。むしろ簡易的にすることで診断率を高め、精度向上につながったのだといいます。
治療が必要な子供を病院に連れてくるには、ほかの子供もつれていかなければならない。そのため病院での人数が多くなり院内感染も発生するという問題がありました。冷蔵の必要のないピーナッツミルクテイストの治療食は、持ち帰ることができ、この問題を解決しました。ピーナッツミルクテイストという子供が食べたくなる工夫も、まさにナッジの視点だと思います。

ピーナッツミルクテイストの治療食。 ピーナッツミルクテイストの治療食。https://msfwarehouse.ca/products/therapeutic-food

デザインのパーパス

マズローの欲求5段階 マズローの欲求5段階

ウンニ・カウナカラ氏の発表から、マズローの欲求5段階の底辺にこそ、デザインのパーパス(存在意義)があるのではないか。国境なき医師団のケースは社会課題の最前線だと言えると思いますが、“サステナビリティ”が叫ばれる昨今、一見、先進国で、安全で、マズローの欲求5段階の頂点にいるかと思われる私たちにも必要なことなのではと思います。

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