「文化を、あなたと創る。」を企業フィロソフィに掲げる寺田倉庫。現代アートのギャラリーが集う複合施設やアートコレクター向けの保管庫を持っていたり、高級ブランドの新作コレクション発表の会場になったりと、ラグジュアリービジネス界隈で頻繁に登場しています。一般的に「倉庫」と「ラグジュアリー」は同時にイメージできませんでしたが、そのサービスはとてもユニークで、「倉庫はただの物置とか広いスペースだけじゃないの?」と私たちに新鮮な驚きを与えてくれます。普段、接点が少ない「倉庫業」ということもあり、ミステリアスなイメージもありますが、寺田倉庫は「モノだけではなく、価値をお預かりする」ことにこだわった事業展開で、保管する「モノの価値」の創造から、モノが生みだす「余白の価値」の創造へとその存在意義(=パーパス)を進化させています。さらにその先には、ストレージ、IT、天王洲という場を通じて、様々な人とつながり「共有知の価値」を創っていくことを目指しています。「意志あるパートナーと共有して未来をつくりたい。」「ともに学び、創り、成長する。文創を加速していく。」「常識に縛られずに進もう。自分が自分でありつづけられる世の中を創ろう。」と発信する寺田倉庫。経済価値と社会価値を両立し、現代に、社会に必要とされる寺田倉庫らしさに「IT×STORAGE」・「TENNOZ×CULTURE」の観点から迫ります。専務執行役員の月森正憲氏にお聞きしました。第4回のシリーズです。
文:熊高 慎太郎
<月森 正憲氏 プロフィール>
専務執行役員 MINIKURA担当
MINIKURAグループリーダー
1998年寺田倉庫に入社後約7年間、倉庫現場にて庫内オペレーションに従事する。その後、営業を経て企画担当へ。2012年に、ユーザーが預けた荷物をWEB上で管理できるクラウド収納サービス「minikura」をリリース。2013年に、倉庫システムをAPI化し様々な企業と新規事業を共同で創出。また、倉庫、物流に悩むスタートアップ6社をこれまでに支援し、うち3社では社外取締役を務める。
文化創造の貢献につながる思いを込めて、最適な余白をご提供する。
―――まず簡単に『倉庫ビジネス』というところについてご説明いただけますでしょうか?
月森正憲氏:倉庫は一般的に聞く「ロジスティクス」みたいな、広大な敷地と施設を持ち、またトラックも何十台保有してということが一般的だと思います。1950年に創業した寺田倉庫の倉庫ビジネスは、「お米をお預かりする」というところからスタートしました。現在はお米をお預かりしてはおりませんが、「T.Y.HARBOR」というレストランがある場所が、我々の発祥の場所です。そこで運河から運ばれてくるお米をお預かりしていました。(今はお米をお預かりしてないが)お米に最適な空間はなんだろう、お米に最適な取り扱い方ってなんだろう、ということが脈々と引き継がれています。
我々は事業ドメインの一つとして「保存・保管業」を謳っていますが、お米を取り扱ってきたノウハウを活かして、今ではワインやアートなど、お預かりしたものの品質や価値を高めていくことにも取り組んでいます。
また、今はロジスティクスを手がけていませんが、私の入社当時(約20年前)はまだやっていて、それこそ大型の倉庫を構えて、ワインのインポーターさんのお手伝いなどもしていました。今のワイン事業の95%は個人のお客様ですが、法人向けのワイン事業などの物流もやっていて、インポーターさんが買い付けたワインのロジスティクスのようなことをやっていました。例年11月頃から、ボジョレーヌーボーの解禁、クリスマス・お歳暮・お正月といった感じで繁忙期を迎えたものです。
このようにロジスティクスに従事していたんですけども、やはり差別化が図れないというか、あの世界は本当に価格競争で。やっぱり何かしら抜きん出るものがないと、価格競争して取った・取られたの世界になるんです。だからこそ、ただ単に「倉庫スペースに沢山ものを預けてください」という単純な話ではなく、今は「余白創造のプロフェッショナル」という言葉を掲げています。
預けることでその先にある生活の質が向上する、文化創造の貢献につながる思いを込めて、最適な余白をご提案ご提供する。そんな会社でありたい。
一般的な倉庫会社の超ロジスティクスはできないからこそ、お預りするものに最適な空間を用意して、その先の活用だったり、預けたものを軸に生活の質を変えられるような何かだったり、そういうことを目指したくてずっとやっていますね。
本当に我々がやってきたことが今に活かされているか。
―――おっしゃられたように、現在の寺田倉庫は我々のイメージにある倉庫とは全然違う気がします。また、今はワインやアートなどに特化されていますけど、変わるきっかけみたいなことはあったのでしょうか?
月森正憲氏:法人向けの物流をやっていたときもあったので、変わるきっかけはこれまで何度かありました。最近ですと創業60周年のタイミングだったと思います。当時は従業員が今よりも多く、いろんな物流拠点もありましたが、「変化に対応できているか?本当に我々がやってきたことが今に活かされているか?」と問いかけると、明確な答えは出てこない。そこで寺田倉庫のDNAをもう1回見つめなおして、「我々がやるべき事業ってこうだよね」と考え直していったのがきっかけです。
―――DNAを見つめ直すとおっしゃられましたが、寺田倉庫のDNAとはどういったことでしょうか?
月森正憲氏:お米に最適な空間はなんだろう、モノにとって最適な取り扱い方はなんだろうとか。少数精鋭ゆえに創意工夫を重ねながら、独創的な事業を立ち上げていく、そういったところでしょうか。
これがいい表現かは置いておいて「大きな山のナンバーワンを目指す」となると、先ほどのロジスティクスの例のように、ナンバーワンにはなれません。ただ、ワインだったりアートだったりテーマを絞り込んでいけば、ニッチな中でオンリーワン・ナンバーワンになれる。それこそ寺田倉庫が目指していたことなんじゃないかなと思いまして。一時は拡大路線に向かったものの、ニッチなナンバーワン・オンリーワンになろうよと。その山をいっぱい築いていこうよと。
―――そういう意味では、「倉庫ビジネスのセオリー」の真逆を行ったとも言えると思うんですけど、社内で反発はなかったんですか?
月森正憲氏:ありましたね。ただ今となっては結果的に読み通りになったなとも思います。社会の変化のスピードはものすごく速いので、そこに対応するためにはある程度動きやすい環境にしておく必要があります。2・3年前に「Ok Google」の世界が来るなんて、最初はだれも思いませんでしたよね。それがこの1年に起こるよ、という話題が出て、すぐにそういう世界が実現してしまうように、インターネットとかITの世界を含めて、本当に変化は凄まじくて。変化に対応するために何をしないといけないかというと、会社もスリム化していく方に舵を切った、ということですね。
――厳しい価格競争にさらされる中、倉庫の持つ本当の価値や可能性に着目することで変革を遂げた寺田倉庫。そのひとつの鍵である「IT×STORAGE」とは?第2回へと続きます。