人間の能力を覚醒させる。
そんなロボット技術があれば、
社会は変わるかもしれない。
-ATOUNの今後の取り組みについてお聞かせください。
藤本 弘道氏:うちのロボット技術を、超人化できるニーズとか変身するきかっけと位置付けて新しい取り組みをやろうかと準備を進めています。ロボットを使えば、「人間にはこんなことができるのか」と思うような新しい体験が生まれる可能性がありますよね。それをきっかけに、人間の新しい能力が覚醒したりするんじゃないかと思っているんです。感覚が変わってくるというか。缶ってつぶせないものって思ってますけど、つぶせるものなんだとわかると、また感覚や価値観が違ってきますよね。そうなれば、社会が変わるきっかけになるかもしれないというのが今の興味の中心にきています。例えば、身近なところで言えば、杖をつかないと歩けない人。そういう人の多くが、自分には介助が必要だからという理由だけで、「出歩く」という行為を遠ざけてしまっていて、それが歩行力の回復を妨げているようなところがあるという説もあります。でも、ロボットの力を借りて、杖なしで歩けたとしたら、「自分は今も一人で出歩くことができるんだ」と改めてわかる。ロボットのアシストが意識を変えるスイッチになって、出歩くようになれば本当に歩行力が回復するということもあるかもしれない。まあ、これは仮説ですが、自分が変わるきっかけになりうるんです。それにロボットを使うことで、本来の姿勢や身体の動かし方を思い出させることもできます。悪循環を断ち切るというか、意識から変えていくという。人生100年時代と言われて、ただ長生きするだけではなく、いかに健康でい続けられるかという「健康寿命」が重視されていますが、我々の技術はそこに貢献できると思うんです。例えば、いま私たちが開発している歩行支援タイプのパワードウェアのプロトタイプ「HIMIKO」なら、歳を取って力が落ちてくると作業がしんどくなってくるのと一緒で、歩くという作業もしんどくなってくるので、そこを助けてあげられる。健康の起点はやっぱり歩くことですから、身体にもいい。人生100年時代もさらに有意義なものになるんじゃないかと思いますね。
それに、そもそもの話で言えば、人間にはまだまだやれることがあると思うんですよ。よく潜在能力の10%とか20%しか使ってないとか言われるじゃないですか。じゃあ、どうすれば残りの能力を発揮できるんですかと専門家に聞いても、よくわからない。でも、ロボットの力で意識が変われば発揮できるかもしれない。あくまで、仮説にすぎませんがね。と言うのも、よく言われていることですが、意識が人間の能力を制限してしまっているところもあると思うんです。アスリートの世界ではよくありますよね、しばらく世界記録が停滞していても、あるとき一人がポンと超えると、急にいろんな人たちが超えていくみたいな。「あ、できるんだ」と思った瞬間から、急に能力が拡張されますよね。その「できるんだ」のきっかけづくりに、ロボットが使えるんじゃないかと思うんです。そこを拡張していくってすごいことじゃないですか。ロボットにやらせてしまえばいいという人もいるかもしれないですけど、やっぱり人間にしかできないことってまだまだたくさんあると思うんですよね。
災害大国だからこそ、
先に進む。
新しい仕組みをロボットで。
-ATOUNのこれからの未来。一番の目標は何でしょうか?
藤本 弘道氏:まずは、パワードウェアを普及させることです。力の面では、まだまだ社会に課題がたくさんありますから。商品としてはまだ腰のサポートだけですけど、腕の機能が欲しいというお客さんも多いので次の開発として進んでいますし、足の機能についてもやり始めています。腕、腰・体幹部分、脚部というところで、全身のアシストをできるようにしてそれを組み合わせて使っていただける状態にしたいというのが一つ目です。その次に考えているのは、災害救助、例えば震災や土砂災害にも使えるロボットを提供していきたいなと思っています。災害時には、最初は自衛隊や消防団、重機を持っている人や企業も協力してくれるんですけど、ずっとというわけにはいきません。最後の最後に復興させるのは、住民やボランティアだったりします。そういう人たちを助けるロボットを何とかしたいという思いはありますね。では、住民やボランティアの方に使っていただくためにはどうしたらいいのか。もちろん、ボランティアなのでお金なんてないんですね。でも、うちが全員に出せるだけの資金力があるわけでもない。だから何かしらの仕組みを作らないといけないと感じています。まだアイデアは完全に仕上がってはないんですが。大災害からの復興もそうだし、小さな復旧にしても、かなりのエネルギーが必要だと思うんです。そこをロボットで支援することができれば、個人の負担も社会としての負担も小さくすることができますよね。もちろん、災害によって起こった不幸を消すことはできないのですが、回復のための労力が少しでも小さくなれば、気持ちの面でも何かしらの後押しになるかもしれない。そこに配慮した態勢や、社会の仕組みのようなものがあれば、もっと日本の国にも安心感のようなものが出てくるんじゃないかと思うんです。そこに何か貢献できればなという思いはありますね。
和えて活かす
イノベーションで、
パワーバリアレス社会
をつくる。
-その未来図に向けて、確実にやるべきことをやっていこうとしている、ということですね?
藤本 弘道氏:それがそうでもないんです 笑 実は。
ATOUNという会社は、「パワーバリアレス社会をつくる」ということを掲げ、その方向に向かってはいますけど、アプローチの仕方はものすごく簡単に変わるんですね。それは何で変わるかと言えば、そのときに誰がいるかで変わります。普通は企業が目指すものがあってそれを実現するためにどんな人が欲しいという採用をする思うんですけど、すでにお話ししたように、我々の採用の仕方はそうではありません。おもしろい人がいれば、仲間になってもらう。その人をどう活かそうかと考えて、それに合わせて仕組みもやることも変えていきます。パートナーとなる企業も同じです。おもしろそうな企業と出会ったら、そこを活かすためにやり方を変えることもあるわけです。中にいる社員たちも、ビジョンだけは共有していますけど、アプローチには裁量を与えているというか、みんな自由にやりますから。
いろんな人がいてそれぞれが自由にアイデアを出す、まさに和えて活かすイノベーションですね。
〈編集後記〉
社会実装にこだわった、和えて活かすイノベーション。お話を聞いているうちに、「和えて活かす」という言葉を、「敢えて活かす」と受け止めたことがありました。技術ありきのマネタイズではなく、社会に実装するための技術を開発すること。地方都市・奈良でイノベーションを起こすことの立地的・人的不都合さ。社会実装が進まないなかで生まれた「意識を育むものづくり」の視点。立ち向かうしかない様々な課題に敢えて挑む。そんな覚悟を感じました。技術は「使ってもらってナンボ」。焦ることなく着実に、社会に実装させる。その高い志こそが、ATOUNらしいパーパスにつながるのだと思います。「ロボットを着て、人間がもっと自由に動き回れる世界をつくる。」ATOUNの挑戦を、これからも見届けていきたいと思います。