自然と美しく生きる
石坂産業は、 “産業廃棄物中間処理業”を主に営んでいる会社です。しかしいわゆる“産廃業者”とひとくくりに言われるイメージはそこにはありません。防音・壁面緑化を取り入れた壁に囲まれた、クリーンな全天候型独立総合プラント。プラントの周囲には1300種類以上の動植物が生息するという広大な美しい雑木林を有する里山があり、その中では小さいお子様を連れたファミリーが遊んでいます。近くの自社農場で収穫した新鮮な野菜をふんだんに使ったランチを楽しむ姿も見えます。私たちの目には“廃棄物処理”ではなく、“資源再生”、豊かな恵みを生み出している場所に映りました。まるで理想郷のような石坂産業。それはここだけの“理想=きれいごと”で終わってしまうものなのでしょうか?いいえ、そこには世界を変える“石坂産業ならでは”の志とブランド戦略がありました。石坂知子専務と熊谷豊執行役員にお話を聞いていきます。
取材・文:橋本和人
事業内容
歩んできた50年と
これからの50年。
何をやっていくのか。
石坂産業のことを“絶体絶命の危機からの逆転劇”でご存知の方も多いのではないでしょうか。1999年におきた所沢ダイオキシン報道問題。風評被害を受けた農家や住民の怒りの矛先は、“産廃銀座”と呼ばれていた「くぬぎ山」一帯の産業廃棄物処理業者へと向かい、その中でも最大手の石坂産業は恰好の標的となってしまいました。「石坂産業反対」「石坂産業は出ていけ」その渦中に2代目社長に就任した石坂典子社長が中心となって、様々な事業改革と里山保全活動を行い、それによって今では、地域住民のみならず、世界中から人が訪れる信頼される企業へと変貌し、業績も躍進を遂げました。「石坂産業は地域に必要だ」そういわれるような企業へと逆転させたことで多くのメディアに取り上げられています。
「2017年。この年がちょうど50周年の節目。今まで石坂産業が歩んできた50年と、これから先の50年先を見据えて、自分たちが何をやってきて何をやっていくのか。スローガンを社員に考えてもらったんです。あえて様々なセクション、立場から、新卒も入れて。あらゆるキーワードが出てきた中で役員満場一致で“自然と美しく生きる”で。(産廃の)業界のイメージとは違うと思うかもしれませんが、これからやるべきことも入っているなぁと。その想いというのが面白いなぁと思ってこの言葉に決めたんです。」(石坂専務)
コーポレートスローガン“自然と美しく生きる”。“美しく”の言葉にはいろんな意味が込められているそうです。石坂産業のホームページに行くとまず、ドキッとする強いメッセージが飛び込んできます。「まだ大丈夫、いつまで人は、そう思うのだろう」「子どもたちや、その子どもたち、そのまた子どもたちの時代へ、ずっとずっと、美しい地球と、大切な心を引き継いでいきたい。」これらの言葉から、どうやって生きていくのか?どうやって次の世代の暮らしをつくっていくのか?そこに自分らしい答えをきちんと持てるか?と考えさせられる。“美しく”の言葉には、そんな強い問いかけが込められているように感じます。
ISHIZAKAのI。
世界に波紋のように
広がってほしい。
ロゴマーク開発も社員たち自ら考え、取り組んだプロジェクト。真ん中の濃くなった部分に日本の伝統色の孔雀緑を使用しています。これはアルファベットのIで、ISHIZAKAのI、私たち一人ひとりを意味するI、さらには愛情のIを意味しています。持続可能な社会に向けた研究開発や環境教育など、日本の石坂産業のグリーンな活動が、世界中に波紋のように広がって行ってほしい。そして世界中から、様々な想いをもった人達が石坂に集まってくる。そんな想いが込められているのだと石坂専務はいいます。
「今はこういったプロジェクトや、新しい事業なども社員自ら考え、進めていきます。次の世代の社員を育てるのは、今いる社員。自分たちで決めたことだから、社内浸透もしやすい。つまり、次の世代につながっていく。やっとそんな環境になってきた。」
“パーパス=目的・社会的存在意義”。あなたは何のために存在するか。あなたの志は何なのか。石坂産業は1999年に起きた所沢ダイオキシン報道問題に巻き込まれ、図らずも「石坂産業は出ていけ」という地域からの圧力によって、その存在意義を問われることになりました。そして地域に愛され、信頼される企業になるために必死に行ってきた事業改革と里山保全活動を通して、社員一人ひとりがその “パーパス”を考えることにつながったのではないかと察します。トップダウンではなく社員から生まれたコーポレートスローガンやロゴマークを掲げて、石坂産業のチャレンジが続きます。
実はリサイクル後進国?日本!
(Environment at a Glance 2015 OECD INDICATORSから)
日本の廃棄物処理とリサイクルについて見てみると、他国と比べて“廃棄物を焼却する”ことにいかに頼っているのかがわかります。国土が狭いことから廃棄物を焼却し、量を減らすことで対応してるのです。焼却する際に発生するエネルギーを回収して発電などに活用する“サーマルリサイクル”と呼ばれる方法で、1:発生抑制(reduce)2:再使用(reuse)3:再利用(recycle)4:熱回収5:適正処分のうちの4番目に該当します。この図から日本の廃棄物政策は、循環型社会の実現という点において、まだまだチャレンジすることがあるように見えてしまいます。その中で焼却ではなく分別分級の徹底により98%という驚異的なリサイクル化率を実現する技術を持つ石坂産業。今何を想い、これから何をしようとしているのでしょうか?