このブランドで、
何をしたいのか。
名和先生:中小企業だから誰も知らなくていいと言うのではなく、発信して話題を作ることで、わざわざ来てもらうぐらいのブランドになる。そのためには尖っていないといけない。「ならでは」、独自性がなくてはいけない。そして、裏側にいろいろなストーリーがなくてはいけない。その根っこには、このブランドで何をしたいのか。目的がないといけないと思います。それがワンセットであれば際立つのです。ソーシャルネットワークの時代には「立つ」ことが重要。そうすると広がる。ただし、無理やり広げようと思うと、薄くなってしまうので、成功してもあまり大きくしない、出来る限り中堅・中小のままでいることで希少価値を演出する。それぐらいこだわってほしいです。
――でもスケールもさせないといけない。その頃合いが難しいですね。
名和先生:難しいですね。「ならでは」を薄めずに、スケールする・・。 存在がありすぎて飽きられるのはまずいので、値段的なプレミアム感ではなく、ここでしか買えないとか独特の薄まらない価値観をどう守り続けていくかが大事なポイントになります。
――ブランディングのコントロールが大事になりますよね。
名和先生:何をして、何をしないのか。そこを明確にしないといけない。明確に一つ言えることは、チャネル政策がすごく大事で、途中でいろんなディストリビューターを入れると広がるけれども希薄になってしまう。希釈化される。いいブランドは、自分で直販する。自分でお客さんをしっかり囲い込む。百貨店に出た場合でも、自分のブランドで、自分の店を持つ。デベロッパーとしての百貨店やモールに出店する場合でも、中に埋もれずに、自らの存在感を出すことがすごく大事。
こだわりを持つ企業は、
価値観やコトも、
売っている。
名和先生:私が好きなスノーピークも、ブランドのストーリーがあります。そもそも、山男と言うか、山が好きな人たちの登山用具が出発点で、その後、ハイエンドなキャンプ用品へと展開していきます。本拠地は新潟の燕三条。昔は鍛冶屋などの金属加工の名所だったけれども廃れてきた。そこで地域の匠を使って、キャンプ用品をつくっていくわけです。スノーピーク自身はファブレスですが、プロデューサーとなって地域のいろいろな人たち、匠を束ねていろいろな商品をつくっていく。最初はコアな人たちが求めていたけれどもそのうちオートキャンプというスタイルとともにすそ野が広がっていった。自分でお店を持ち、自分のブランドをしっかりと立てることにこだわって、その神話を守っている。海外にも出ているが、ブランドの希少性は守りながら、自分たちがしっかり出て行ける範囲でお客さんとの接点も広げていくというのは、大事なことだと思います。
他にも、『龍角散』はユニークですね。元々は、秋田藩の御典医だったわけです。喘息持ちだったお殿様の喉を守っていたところから始まって、200数十年喉を守ってきた人たちです。そして最近は、「ゴホンといえば龍角散」に、「ゴクンといえば龍角散」が加わった。薬を飲みやすくするゼリー『らくらく服薬ゼリー』の開発です。これは、彼らなりの「のどを守る」企業理念に基づいたピポット(方向転換)だと思います。お薬をゼリーで包み込むことで、楽に飲めるようになった。ただそれだけだと、似たような商品が出てきて、誤飲する可能性がある。だから、正しいもので飲まなきゃいけませんよと、お客さんを啓蒙しなければならない。それがお客さんにとって大事なことと同時に、商品を売ることにつながる。自分たちの「ならでは=のどを守る」にこだわってるがゆえにできることです。正しい作法、正しいクオリティ・オブ・ライフの守り方とセットで、モノだけ売るのではなく、価値観やコトを売っているところがこだわりを持っている人たちの特徴だなと思います。
名和高司(なわたかし)
一橋大学大学院 経営管理研究科 国際企業戦略専攻
客員教授 名和高司
東京大学法学部卒、ハーバード・ビジネス・スクール修士。三菱商事の機械(東京、ニューヨーク)に約10年間勤務。 2010年まで、マッキンゼーのディレクターとして約20年間、コンサルティングに従事。自動車・製造業分野におけるアジア地域ヘッド、ハイテク・通信分野における日本支社ヘッドを歴任。『高業績メーカーはサービスを売る』(2001、ダイヤモンド社、共著)、『戦略の進化』(2003、ダイヤモンド社、共著)、『学習優位の経営』(2010、ダイヤモンド社)、『日本企業をグローバル勝者にする経営戦略の授業』(2012、PHP研究所)、『失われた20年の勝ち組企業100社の成功法則 「X」経営の時代』(2013、PHP研究所)、『CSV経営戦略』(2015、東洋経済新報社)、『成長企業法則~世界トップ100社にみる21世紀型経営のセオリー』(2016、ディスカバー・トェンティワン社)、『コンサルを超える問題解決と価値創造の全技法』(2018、ディスカバー・トェンティワン社)など著書・寄稿多数。