#監修者インタビュー 2018.09/01
-
あなたの志は、
何ですか。
あなた「ならでは」が、
世界を変える。名和高司
経営管理研究科
国際企業戦略専攻
客員教授
『J-CSV』で、日本にグッドサイクルを。
――先生が提唱されている『J-CSV』についての考え方を教えてください。
名和先生:CSVはCreating Shared Valueの略で、共通価値の創造、共通価値の戦略という言葉で言われています。何が共通かと言うと社会価値と経済価値を両立させることです。経済価値というのは企業にとっての企業価値そのもので、世の中にとっての経済価値というよりは自社にとっての経済価値です。マイケル・ポーター教授が提唱したのが2011年1月で、そこから世界中が注目をしました。でも、考えてみたら日本の企業はずっとそうやってきていて、「三方よし」とか「論語と算盤」という形で日本企業の一つの理念でもあったわけです。日本の企業は良心でやってきたけれど、企業戦略として改めて意識し位置付けることによって、もっともっと世の中にいいことができて、もっともっと成長できるんじゃないでしょうか。日本の企業がますます成長し、社会に貢献するようなグッドサイクルが回るといいなと思って『J-CSV』を提唱しています。
-
「あなたの志は何か」を
問われるのが、『J-CSV』の特徴。名和先生:ポーター教授にしてみると社会価値を提供することは、経済価値や企業価値をあげることの手段であって、目的ではない。目的はあくまでも儲けることであると。企業はイノベーションが必要だとか需要創造が必要だと言うわりには、なかなか当たらない、確率が悪い。一方、社会課題は現実に需要があるにもかかわらず、世の中に放置されている。なぜそこに残っているかというと、お金に換算できるようなイノベーションがおこっていないから。
-
技術的なイノベーションというよりも、ビジネスモデルが成り立っていないから社会課題が残っているわけです。需要は少なくともあるので、その需要に対してビジネスモデルを当てはめることができれば、確実に市場があり儲かるはず。だから社会課題は収益機会の宝庫である、というのがポーター教授の本音なんですね。社会に良いことをしようという善意よりも、儲けのために今そこにある未顧客の問題を解決することが事業戦略として非常においしいというのがポーター教授の本音。しかし、日本企業はそこまで世知辛く利益利益と言っているわけではないんです。
確かに、儲からないと社会に対する価値も持続的に提供できない。だから経済価値は必要だけれども、それはあくまで社会の役に立つという目的のための手段にすぎない。つまり、目的と手段が日本企業の場合は逆になっている。それが『J-CSV』の根幹にあると思っています。そもそも企業は何のために存在するのか。日本の企業の場合は、「パーパス=目的」に紐付いた活動になっています。「あなたは何のために存在するのか。あなたの志は何なのか」ということから出発するのが『J-CSV』の特徴です。そのためには、その会社「ならでは」のこだわりがなければならない。なぜその会社が世の中にいなくてはいけないのか。そこを根源まで問い詰めない限り、その後の活動に繋がらない。ポーター教授は世の中に困っている人がいれば、それがいい儲けのタネになると考えている。しかし『J-CSV』は儲かるからやるのではなく、自分のやりたいこと、思いを大事にして出発している。ここが大きく違います。
CSV | J-CSV | |
---|---|---|
目的 | 経済価値をあげるため | 社会の役に立つため |
手段 | 社会の役に立つ | 経済価値をあげる |
特徴 | 未顧客の問題を解決 | 志は何かを問われる |
CSVとJ-CSVの違い
-
良循環をもっともっと大きく、
高速に回してほしい。名和先生:日本の企業にCSVをやっていますかと聞くと「やっている」と答えます。私はこれを「なんちゃってCSV」とか「開き直りCSV」と言っています。説明のしようによっては、やっていない会社はないんです。確かにやってはいるんだけれども、それをうまくエンジンとして回転させることによって、良循環をもっともっと大きく高速に回していこうと考え直すべきであって、やっているからいいでしょっていうのはもったいない。
日本の中堅・中小企業は良いもの、一芸に秀でているものを持っているけれども、それだけで終わっていてもったいない。もったいないっていうのは、もっと儲かるよというよりも、そんなに良いことしているんだったら、もっと世の中に共感を広めて、世の中の人たちをもっとハッピーにするということを、やるべきではないかと。そのためには『J-CSV』を戦略にして、今やっていることを拡大再生産し、周りを巻き込んで大きくしていって、みんなをハッピーにするという意欲があってもいいと感じています。
名和高司(なわたかし)
一橋大学大学院 経営管理研究科 国際企業戦略専攻
客員教授 名和高司
東京大学法学部卒、ハーバード・ビジネス・スクール修士。三菱商事の機械(東京、ニューヨーク)に約10年間勤務。 2010年まで、マッキンゼーのディレクターとして約20年間、コンサルティングに従事。自動車・製造業分野におけるアジア地域ヘッド、ハイテク・通信分野における日本支社ヘッドを歴任。『高業績メーカーはサービスを売る』(2001、ダイヤモンド社、共著)、『戦略の進化』(2003、ダイヤモンド社、共著)、『学習優位の経営』(2010、ダイヤモンド社)、『日本企業をグローバル勝者にする経営戦略の授業』(2012、PHP研究所)、『失われた20年の勝ち組企業100社の成功法則 「X」経営の時代』(2013、PHP研究所)、『CSV経営戦略』(2015、東洋経済新報社)、『成長企業法則~世界トップ100社にみる21世紀型経営のセオリー』(2016、ディスカバー・トェンティワン社)、『コンサルを超える問題解決と価値創造の全技法』(2018、ディスカバー・トェンティワン社)など著書・寄稿多数。