日本でいち早くSDGsに取り組まれたSDGパートナーズ田瀬和夫さん。「2030年にどのような世界を次の世代に残したいか」という人類の強い想いを体現したSDGsの日本における現状、そしてSDGsを軸に独自の価値が生み出される可能性についてお聞きしました。
SDGsという方法論で、
経済と社会と環境をつなげたかった。
―――日本でもいち早くSDGsに取り組まれた田瀬さんですが、どういった経緯でSDGsに着目しビジネスにしてきたのでしょうか。
田瀬氏:私はSDGsが2015年に採択されるずいぶん前から国連で「人間の安全保障」という文脈で関わっていましたが、公共の機関ではなかなかお金が続かない。パブリックとプライベートとつなげて考える必要がある。そういったことが環境や平和、人権につながっているという想いがあって民間の「デロイトトーマツコンサルティング」に移りました。
2016年5月にデロイトでSDGs推進室を自分でつくって進めていたんですけれども、当時2016年、2017年に予算をしっかり持って、SDGsを理解してその先にある世界観まで含めて会社の取り組みにしようという会社はなかったんです。当時はまだCSRという時代でした。「SDGsが採択されたんだって」いうぐらいの時代だったんです。
SDGs推進室を立ち上げ進めていく中で、「なかなかリソースを使えていない、きちんと思想を理解できていない」という問題意識がありました。だったら自分ではじめて、大手のコンサルティング会社よりも安いフィーで、もう少し思想的なところから経営者が理解できるようにしたかった。
企業の本分というのはお金を儲けることだと思うんですが、お金を儲けながら社会に対して役に立つ、社会に対して善をなすということは絶対に可能です。それをやるためにSDGsという方法論があるんですよね。それを主流化することで、経済と社会と環境をきちんとつなげていくことができるはずです。でも2017年の時点では会社の単位でやっている会社はどこもなかったので、「SDGパートナーズ」としてはじめました。
―――確かに2017年ぐらいからまわりでもSDGsという言葉を聞くようになったと思います。田瀬さんは早い時期から取り組まれていますが、当時のまわりの理解というのはどうでしたか?
田瀬氏:デロイトでも「それでマネタイズできるの?」というように、コンサルティング会社の利益になるとは思われていなかったです。実際難しかったですね。ケースをつくるというような形で投資的にやっていました。2016年の夏以降、大手の電気会社やいろんな会社が取り組んでいきたいと相談してくれはじめましたね。2017年のはじめの時点で、絶対にこれはビジネスになるという確信はありました。大手のコンサルティングフィーはその頃の企業の感覚からすると高すぎたんだと思います。
―――当時、企業にSDGsを入れ込んで企業を変革させるという方法論すらもまだなかったですよね?
田瀬氏:なかったですね。今でもそうですけど、「SDGsを使って新規事業をつくろう」とか「SDGsを使ってイノベーションを起こしてたくさん儲けよう」というのがすごく多いです。でも私たちはちょっと違っていて、「最終的には儲かるかもしれないけれども、20年後30年後に社会がどうなっているか」というビジョンがあって、「世界においてうちの会社はどんな役割を果たしているのか」ということを経営者がちゃんと想像ができて、「そこに向かってどういう風に登って行こうか」というように長期的に見ています。
普通のコンサルティング会社の人たちが考えると「再生エネルギーを使って1年以内に儲けよう」とかそういう話になりがちです。そうではない長期的なビジョンと、会社自体の組織運営でやばいところ、つまり企業は社会に対して悪をなしているところが必ずあるんですよね。例えば鉄をつくればものすごく二酸化炭素を出すし、ゴミも出る、排気ガスを出す、ものすごい量の水を使う。社会にとても負担をかけているわけですよね。
「マイナスの部分をどういう風にミニマイズするか」ということは絶対やらなければいけないと思うんです。プラスの方は長期的視点でゆっくり、だけど確実に成長していく。マイナスの方はやばいことをなるべく小さくする、この両方をやっていかないといけない。それができれば中長期的には確実に儲かります。
―――企業は短期的に儲けたいという発想になりがちですが・・
田瀬氏:例えば欧州の会社は、30年、40年先のことを考えるのに慣れています。経営会議で何が話されるかと言うと「30年後どうするんだ?」「どんな社会になるんだ?」というところから。そういう思考回路に慣れているのに対して、日本の会社は「必達」しかやらないから、「今できることから、来年は何ができる」という思考にならざるを得ないです。「こういう世界にならなければいけないよね」じゃなくて、「今年はこれだけできてるから、来年はこれができるよね」というのしかやらないのは駄目ですよね。
もう一つは、他社が何をやっているかを気にしすぎです。他社がどうあろうが、自分たちが正しいことをやればいいんですよね。特にサステナビリティに関しては、「他の会社も環境に取り組みはじめたので、うちもやらなければいけないかな」と。「いや、そういう話ではないでしょ」と。