喜心=食との
真剣な向き合い、喜び
―ここは朝ごはんのお店だということですが、なぜ、朝ごはんのお店をやろうと思ったのですか?
池田さゆり氏:京都の方に町屋が残っていて、そのプロデュースもやるようになって、そこで活動していく機会が増えていく中で、新しくできるホテルの1階のプロデュースをやらないかというお仕事をいただきました。1階で祇園だったということもあり飲食店を…そして意外と朝食というものがなかったこと、また朝というものの重要性、そう考えて朝食のお店を企画しました。鎌倉も朝がとっても気持ちいい、朝が充実すると一日が充実します。ここにもそういう良いものをつくっていきたい…でも周りを見るとカフェとかパンケーキとかは多いんですけれども和食で、朝食で行きたいお店、私たちが行きたいお店というのがなかった。京都の料理監修の方や、器に詳しい方などにお声掛けをしてチームをつくりました。それが朝食 喜心の始まりです。
喜心という名前は、禅に由来しています。食べるということはすべて修行である、三食食べるためには作らなければならない、それは喜びでもあり、辛い部分でもあると。食をいただき、食に真剣に向き合うということが大切であるという教えが込められている言葉です。鎌倉もかなり禅文化が日常にありますのでなじみがいいと思います。しかしその通りだなあと…つい食べることが当たり前になってしまいます。忙しくなって食に向き合う気持ちがおざなりになってしまう。食に対する大切な気持ちを、体験することでまた新たにしたい。そう思って、この名前を付けました。
ごはんって、こんなにも
尊いものだったんだ
池田めぐみ氏:喜心はお米がメインディッシュなんです。お米の一生、お米からご飯に変わるところ、ふっくらしていく過程から最後おこげまで味わえる。お米とか汁物って普段、脇役な感じなんですけれども、豊かなこの時代に、すごくシンプルに、あえてそこに向き合うというような、そういったある意味尖った挑戦をしています。
池田さゆり氏:お米が主役ということになると、シンプルなだけに、とてもシビアになります。ご不便をおかけしていますが、予約制になっているのも、1時間かけてご飯に対して向き合ってほしい、予約で来て頂いてベストなタイミングで、大切な体験をして欲しいから。ここでの食の体験をじっくりと味わっていただきたい。日本の食は体が求めるほっとするもの。ごはんって、こんなに尊いものだったんだと再認識してもらえたら。
―実はすごく真っ当なところをストレートにやってらっしゃるように感じます。しかしそれは効率性を重視する世の中的には、難しかったりするのではないかと。
池田さゆり氏:理想を追うと非効率な部分は大きいです。一方で理想だけ追い求めても生活はできない。よく理想と現実の間で行き来して、悩みます。そんなときは、これってそもそも私たちがやりたいことだったんだっけ?と問い直します。なぜ私たちが会社をつくり、何のためにやっているのか、というのを忘れてしまうと分からなくなってしまう。なのでこれは私たちらしい仕事なのか?なぜ私たちがいるのか?立ち返れるビジョンが必要になります。
池田めぐみ氏:私たちも常に悩んでいます。時代も変わりますし、お客さんも変わりますし、時代に取り残されちゃいけないし、でも見失ってもいけない。変えるところと、変えないところ、常に悩んで、新しいことにチャレンジしていいないと成長できない。
新しいプロセスや
仕組みをつくることで
結果、古き良きものが残る
―御社の社会価値、パーパスは伝統・文化を守るということなのでしょうか?
池田めぐみ氏:例えば古民家で言えば、そのまま住むとしたら春は気持ちがいいけど、冬はめちゃくちゃ寒くて、住みやすいかどうかで言ったら住みやすくはないし、古くて良いものだからただ残そう、機能として住むだけで残していこうとすると、やっぱりもっと住みやすい家に取って代わってしまうんだと思います。住むのではなくみんなの共同の場所として、教室などの活用の仕方で一時的にでもかかわる人を増やして、みんなで維持していく。伝統・文化に敬意を払いつつ、しかし、執着はせずに新しい挑戦で、今の時代に必要なものに変えていく。結果、伝統・文化が継承される。そういうプロセスや仕組みをつくるのが私たちの役目。
池田さゆり氏:古民家は過去にいくつかの取り壊される危機があったのではないかと思います。しかし、今ここに残っているということは、そういった危機と戦って勝ってきたことにもなります。つまり残そうとして残されてきた、そういった価値がある。知恵とか美意識みたいなものが蓄積されて、それが新しい情報や人とのご縁などにつながっていきます。古民家のハードではなくて、ソフト面にも影響される。そういう歴史ある場所ということが人をフラットにさせる、古民家の包容力、その価値を活かしていくことなのではないかと思います。
―空き家問題の解決や、古民家再生、日本文化の継承がViajesのパーパスだと決めつけていたように思います。お二人は、もちろん結果、その効果もあるとは言っていますが、それよりも、その場で行われる体験を通した人や場の活性化、今現在やこれからの新しい時代をイキイキさせるための、新しい仕組みづくりやプロセスにこそ意義があるとおっしゃっていたのが印象的でした。そんな同社のこれからの取り組み、目指す未来とは?