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企業の人たちも、想像力の使い方が変わるはず。 認定NPO法人PIECES代表 小澤いぶき 社会課題「子どもの孤立」について Vol.03

―――CSR活動やCSV活動など、企業と絡めて子どもたちをサポートする取り組みが増えてきていると思いますが、どのようにお考えですか。

小澤氏:すごい素敵なことだなと思っています。企業の人たちが子どもたちの場に来てくれて一緒に体験をする。子どもたちにとってだけでなく、企業の人たちにも変化が生まれる可能性があると思っています。それは子どもたちと一緒に楽しむ、相手のことを想像する、考えるという体験を長期的なスパンで実施することで、実は企業の中にいる人たちが日々の生活の中での想像力の使い方が変わるんじゃないかなと。CSVの文脈の中で想像力を働かせて、企業にメリットがあるというのが出せるといいですね。自分の想像力をONにして、その使い方をどうするかを自分で考えることを企業と一緒にデザインできないかと思っています。

逆に企業からしたら単発で子どものボランティアに行くのではなく継続的なスパンで行くことで、企業の人ももう一つの目を持って社会に関わることが企業価値にしていけるとCSRを超えた文化がつくれるのではないかと思います。

ただ、NPOを運営する立場としては、まだまだ課題も多いのが現状です。特に私たちの活動は目的や対象を意図的にあいまいにしているので、企業としても関わり方が難しいと言われることは多いです。コミュニティユースワーカーとして6カ月間、さすがに企業としてリソースをさけない事情がある時に、コミュニティユースワーカーたちが子どもたちとつくったコミュニティに企業が参加できるものをつくっていけるといいなと考えています。企業の人たちの参加のハードルが高いかもしれないので。

―――コミュニティの話がありましたが、活動は都内を中心に展開されているのでしょうか。

小澤氏:そうですね、今は都内でコミュニティユースワーカーの育成を行っています。コミュニティの話で言うと、コミュニティユースワーカーを育成していくと、いろいろとおもしろい反応が起こっています。育成の中では子どもと関わってその時のリフレクションをチームで繰り返していくんですけど、その後もっと関わりたいという方が多く出てきます。ある保育士さんは、保育園に勤めながら自分で「若年妊娠」の人たちの居場所を立ち上げたり、夏休みでごはんを食べられない子どもたちはどうしているんだろう?と気になった人が、子どもたちと一緒にいつでも無料で来られる食堂を公的な施設と連携してオープンしたり、自発的にそういうものが生まれています。

職業にもう一つ意味づけすることをしたい

小澤氏:企業の職能の意味を変えていく、例えば不動産の方は家賃滞納がわかってるんですよね。データを持っていて、家賃滞納の先に何があるかというと一切払えない現状があると思うんです。その時に家を貸しているという職能もあるけれど、最前線で人に対して関わりをできる人、ゲートキーパー的な役割もあるかもしれなくて。職業にもう一つ意味づけをしていけると、リレーションが変わっていくんじゃないかなと。そういった企業の生活動線上とかインフラ上にいる人たちの眼差しが変わると総量的には多いと思うので、そこをやっていきたいんです。その人たちが持つ職業の価値をもう一つ増やしていくということを。CSVで言う経済価値がまだ私たちの弱いところで、そこをちゃんとつくれるとお互いいい関係でできるんだろうなと思います。

―――自分たちの存在意義を再定義し、企業や仕事のあり方や捉え方を変える企業が増えてきているので、ますますつながりが増えてくるように感じます。

小澤氏:そうですね。すでにそういうことやってらっしゃる方は、SDGsなどがあるからこそ、もう一度自分たちが何を社会に生み出していくのかを考えざるを得ない。元々考えていて結びついている企業も多いと思いますが。

―――企業は課題に対する専門性が薄いと思うので、課題の本質の判断が難しい時に小澤さんと組めるといいと思います。

小澤氏:ぜひやりたいですし、どう関わりを変えるかで生み出せる価値もあるんじゃないかなと思っています。人と人の関わりだけじゃなく、人と自然の関わりもそうだと思うんですけど、自然とどういう関わりをして行くと本当の意味でサステナブルなのかみたいなことだと思うんです。

SDGsを流行りにしない。課題消費にしない。

―――SDGsをモノサシに、企業は自分たちの活動を見立て直していますが、そこについてどう思われますか。

小澤氏:とても大事なことですよね。これを流行り、消費で終わらせないようにするにはどうしたらいいのかなと。NPOも、ややもすると課題消費のようになってしまうのは良くないと思っています。「なぜ、何のために存在しているのか」というところで。ある課題を消費するのではなくて、そういった課題があることを認識して長期的にどういう価値をつくっていくかという風に、これをきっかけにシフトできるといいなと思います。

例えばなんですけれど、「サステナブルなクリーンなエネルギーが必要だ」となった時に、太陽光発電をつくろうと山をやみくもに伐採しているのは全然サステナブルじゃなくて。森林の水を保持する機能とかが全部失われ、それによって干ばつや災害が起きた時にその村が孤立し貧困を生み出し、それによって人が都市に流入し都市の貧困を生み出し、というようにSDGsの項目は全部つながっていると思うんです。

本当にどの項目も「長期的に貧困を生み出さないのか」とか「長期的に自然にとって本当にサステナブルなのか」「本当に人にとって、社会にとって、地球にとってwell beingなのか」という視点を持って、長期的なスパンでどうデザインするかの視点と、何を大切にするのかの哲学が必要で。その視点をどう持てるかというのは、企業もNPOも共通の課題だと思っています。

まさに自分はシステムをつくっているという意味では、自分たちの日々の行動が生み出しているという。気候変動を生み出してきた先進国によって、途上国はさらに貧困に陥っているかもしれないので。「これを無くす」ために「やめる」とか、「無くす」ために「こういうエネルギーをつくります」とか、悪い影響に寄与していないかとか、やめるなら代替案として何があるとその人が幸せになるのか。そういうのをセットで考えていく必要があると思います。

  • 小澤いぶき

  • 小澤いぶき
    認定NPO法人 PIECES代表理事/ Founder /
    東京大学先端科学技術研究センター特任研究員/児童精神科医

    2013年PIECESの前身となるDICを立ち上げ、2016年PIECESを設立。
    精神科医、児童精神科医として臨床に携わる中で、様々な環境に生きる子どもたちに出会う。子どもたちが豊かに育つ社会を目指し、子どもたちが孤立しない仕組みづくりや「コミュニティユースワーカー」育成など、子どもたちの可能性が活かされる多様性のある生態系づくりに取り組む。

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