「子どもの孤立」に対して、
人の想像力をどう使うか。
―――PIECESが取り組まれている「子どもの孤立」についてお聞かせください。
小澤氏:子どもの貧困は、大人の貧困と密接に関連があります。子どもの孤立も、人が孤立しやすい環境と関連して起こりやすくなっています。私たちは、「そもそも子どもの頃から人が孤立しないように社会側をどういう風に耕していくか」ということをやっていきたいと思っているんですね。
何で孤立が起こっているのか?というと、背景にすごく複雑に因子が絡んでいて「実際孤立が構造的にどう起こっているのか」というような調査はまだあまりないのが現状なんです。逆に「孤立によって何が起こるか」は調査されはじめていて、孤立が続くと、健康寿命が短くなるとか生活習慣病になりやすくなるとか、心だけでなく身体の健康にも影響が出ると言われています。
経済格差によってボラナブルな環境に陥った方々やご家族とは、これまでは福祉や保健医療、心理の専門家やNPO、一部地域の方々が、ケアやキュアを通して関わってきたのではないかと思います。一方で、すぐ身近にボラナブルな環境に陥った人がいたとしても、そのことを知らずに、触れずに生きているという状態も起こっています。
例えば、家族ごと社会とのつながりが途切れているご家庭、マンションの一室で誰にも気づかれない子ども、路上で生活を送っている人のことを知ろうとしなければ、同じこの地域に住んでいる、同じこの日本に住んでいるすぐそばにも孤立があるかもしれないということに気づきづらいのではないかなと。つまり、社会集団どうしが分断していたり、社会集団がある程度大きい社会集団から分断したりすると、分断された社会集団が見えなくなっているのが現状だと思います。
孤立は「一定の社会集団ごと孤立している状態」と「その社会集団からさらに孤立している状態」があります。例えば、学校という社会集団から孤立してしまって、家にも居場所がないと本当に誰からも見えないようになってしまいます。そこに人がいるけれど見えていない状況に対して、新しいリレーションシップをつくっていかないと、孤立は生まれ続けるのではないかと思います。新しい関係性をつくっていくということは、人の想像力をどう使っていくかということでもあります。
―――複合的だとは思いますが、根本的な原因というのはあるのでしょうか。
小澤氏:人にとっての良い社会関係資本、社会関係がつくれてきたのは、家族、地域、企業といったところが見えないセーフティネットを担ってきたからではないでしょうか。これまで家族は核家族ではなくある程度大きい家族の中でどこかが機能しなくてもどこかでつながっていたり、地域社会がある程度機能していたり、会社が一つの保障になっていたということがあったと思います。地域社会はかなり前から解体していますし、家族形態も変わっていますよね。「紐帯」の変化が結構大きい要因ではないかと思っています。「紐帯」が変化した要因として、人のライフスタイルが変化したとか、格差が進んで就労が不安定になったことで家庭環境が困難になりやすくなっているというのがあると思います。
―――人間と人間のつながりが弱くなってきているのでしょうか。
小澤氏:そうですね。人間と人間の関わり方が変化していると思います。それは悪い面ばかりじゃなくて、しがらみのようなことや強いつながりが煩わしい人にとっては、干渉しすぎない関わりがちょうどよかったりもします。必要とされる関わりは時代により変化するのだと思いますが、人にとっての心理的安全を担保するようなつながりのあり方が大切なのではないかなと。心理的安全性がある関係性を、例えばインターネット上に求めたり、新しい住み方で工夫したりと、試行錯誤が行われている状態ではないかと思っています。
格差も要因の一つだと思っています。中間層がなくなり、社会集団が分断する中で、日常の少し先にある人や他者への想像する機会がなくなったことで、孤立はより起こりやすくなっているかもしれません。
-
小澤いぶき
認定NPO法人 PIECES代表理事/ Founder /
東京大学先端科学技術研究センター特任研究員/児童精神科医2013年PIECESの前身となるDICを立ち上げ、2016年PIECESを設立。
精神科医、児童精神科医として臨床に携わる中で、様々な環境に生きる子どもたちに出会う。子どもたちが豊かに育つ社会を目指し、子どもたちが孤立しない仕組みづくりや「コミュニティユースワーカー」育成など、子どもたちの可能性が活かされる多様性のある生態系づくりに取り組む。