#J-CSV企業の考察04 2020.01/29
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どんな人でも皆
いい仕事をしたいという
欲望がある足立正之
博士(工学)
株式会社堀場製作所
代表取締役社長
ホリバ・フランス社(仏)
経営監査委員会議長
※所属・役職インタビュー当時
社是
おもしろおかしく
事業内容
“はかる”技術を通じて5つの事業を世界27カ国に展開
●自動車計測システム機器部門
●環境・プロセスシステム機器部門
●医用システム機器部門
●半導体システム機器部門
●科学システム機器部門
バランス経営により持続的に成長
京都市南区に本社を置く分析・計測機器の総合メーカー・株式会社堀場製作所。創業以来「はかる」技術の追求と、新たな市場への挑戦により事業成長を続けています。様々な技術の潮目が変わり、社会が大きく変化しているなかでも、持続的成長を続けられるその秘訣は、社是である「おもしろおかしく」の精神にあるといいます。その精神を持つ従業員“ホリバリアン”たちの夢や想い・たゆまぬ努力に、投資の機会や社会からの要請などさまざまな条件が絡み合ったとき、技術革新「イノベーション」がうまれます。「おもしろおかしく」の神髄を足立社長にお聞きしました。全5回でお届けします。
取材・文:川津絹代・橋本和人
コア技術を
どういうところで役に立てるか
模索するDNAがある。
※1950年国産初のガラス電極式pHメーターを完成
― ―電極pHメーターから始まり、「はかる」ということを軸にどのようにこれまで広がっていったのでしょうか。
足立社長:創業者の堀場雅夫は、もともと部品の電解コンデンサーを作ろうとしていました。その過程でpHを正確に管理する必要があったので、pHメーターも自作していました。結局電解コンデンサーの方は実現が叶いませんでしたが、pHメーターの製作技術が残り、それが国産初のガラス電極式pHメーターの誕生につながったのです。なので、最初から「はかる」ということから始めようという、意図的なものではなかったと聞いています。その後、農業の肥料になる硫化アンモニウムの生産需要が高まり、その過程で国産のpHメーターが非常に役に立ったため、波に乗りました。こうした社会の流れもあって、まずは液体をはかるということが、我々のビジネスのひとつの柱となったのです。
そして血液。循環器系疾患の重要なパラメーターとして、ナトリウムとカリウムのイオン比というのがありますが、その分析計を作りました。さらに液体をやっているのだから次は気体だということで、ガスを測る赤外線の技術を導入しようとなったのです。その時に我々はNDIR(注1)の技術に注目しました。この技術を呼気、即ち人の息を測る測定器に応用し、肺炎であるとか結核であるとかの診断に活用していた。医療ビジネスです。
注1:NDIR(non-dispersive infrared)。放射された赤外線が対象ガスの分子振動を引き起こすことにより、特定波長の赤外線が吸収される現象を利用してガスを検知する方法
※1964年エンジン排ガス測定装置の世界ブランド「MEXA」誕生
1960年代に、二代目の社長となる大浦がこっそり自動車の排ガスを測り始めました。しかし創業者は「誰や、こんなことやっているのは!」と怒ったのです。というのも、その時代の車というのはエンジンをかけるととても臭くて汚い排ガスが出たので、医用機器でそれを測るのは抵抗がありますよね。やめろといわれても、(大浦氏は)3台だけやらせてくれと食い下がった。もちろん3台だけというのはなんとか承認を得るための言い訳で、おそらく裏では自動車の排ガス規制が始まることが見えていたのだと思います。そこから自動車向けのアプリケーションが始まりました。もともとのコア技術から、農業、医療と展開し、自動車分野に参入した。自分たちの持っているコア技術がどういうところで役に立つか。これを模索するのが会社のDNAとしてあります。
ひとつのコア技術から
アプリケーションを見つけ、広げてゆく。
※ガス計測技術NDIR(非分散赤外線吸収法)は堀場製作所のコア技術の一つ
― ―製品の対象分野が広がっていったのは、どのようなストーリーがあったのでしょうか。
足立社長:コア技術としては一つでも、その技術が生かせるアプリケーションを見つけ、製品の対象分野が広がっていきます。ガスを例にとると、自動車の排ガス測定のノウハウは、プラントや発電所での煙道排ガス測定に生かされています。
ガスの計測にはキャリブレーション(測定器の読みのずれを把握し、共通の測定の基盤を作る行為)が必要なのですが、そのために同業他社と合弁企業を立ち上げ、ガスの標準を作る機械を作りました。それが、堀場製作所の国内のグループ会社である今の堀場エステックで、そこでマスフローコントローラーという技術が生まれました。半導体産業が急速に成長してきたときに、その技術がガス分析計だけではなく、半導体の製造プロセスでも使えるのではないかということになり、今、堀場エステックという会社は、半導体製造装置に不可欠な製品を供給する会社となりました。ガスの流体計測というコア技術に、上手いアプリケーションが見つかった、産業が見つかったということで成長したのです。
今、堀場製作所グループには1,000種類以上の製品ラインアップがあると言われていますが、実はコア技術というと上記のように整理できます。液体の技術、気体の技術、固体の技術、粒の技術。中でも粒の技術は全ての事業セグメントで活用しています。自動車では排ガスから出てくるパーティクル(粒子)を色々な方法で測っていますし、大気中のエアロゾルやPM2.5も測っています。商品ではコーヒーパウダーや牛乳のホモジナイズ(乳脂肪中の脂肪球を細かく均質化すること)するときの粒を測ります。粒子の計測技術は、堀場製作所の全ての事業セグメントで活用しているのです。1,000種類の製品に1,000個コア技術があるわけではなく、アプリケーションを見つけては広げていくというビジネスの展開をしています。
「堀場製作所にはコア技術をどういうところで役に立てるか模索するDNAがある」。どのように始まって広がっていったのか、堀場製作所の成り立ちと、コア技術とアプリケーションの広がりという、ビジネス展開の形がわかりました。「はかる」に軸足において「コア技術」が展開され、さらに「コア技術」を軸足に「アプリケーション」が広がっていく。専門性と拡張性、一見相反することが同時にかなえられているのは、ぶれない軸足をもっているからこそなのだと思います。さらに詳しくグローバルニッチ戦略やその背景にある想いについて聞いていきます。