#J-CSV企業の考察03 2019.01/18
-
SPA化と
コンサルティングの
かけ算で、
日本の工芸を元気に!十三代 中川 政七
株式会社中川政七商店
代表取締役会長
事業内容
-
1生活雑貨の企画・製造・卸・小売
-
■中川政七商店
-
■遊 中川
■日本市
-
-
2業界特化型経営コンサルティング
- 中川政七氏が初めて手掛けたコンサルティング事例「HASAMI」
-
3流通サポート「大日本市」の企画・運営
享保元年(1716年)創業の老舗「中川政七商店」。中川政七氏が社長就任以降、工芸の世界で初めてSPA業態を確立。全国に50店舗以上の直営店を展開し、ものづくりへの想いやこだわりもあわせて、直接お客さんに届けることを大切にしている会社です。自社商品以外にも、「日本の工芸を元気にする!」のビジョンのもと、日本全国の産地、工房の強みに光を当て価値を見立て直し、「ブランド」として再生する経営コンサルティングも行っています。日本の工芸の今と未来、経営とブランディング、地域への想いなど、厳しくも工芸への想い、愛が溢れる中川政七会長のインタビューを、全6回でお届けします。
取材:橋本和人 取材・文:吉岡崇
――中川政七商店のビジョン「日本の工芸を元気にする!」に込められた想いを、お聞かせください。
中川政七氏:社是や家訓がありそうなものですが、もともと会社にはありませんでした。父親に聞いても、「それで売上があがるのか。そんなものでは飯は食えん」と一蹴されました。ただ、「理念がないと、これから長くずっと働いていくのは難しいよな。利益のためだけに働くっていうのは、しんどいな」と。それで理念が必要だと思ったのが2005年ぐらいです。
それまでは赤字だったので、がむしゃらになって走っていたんです。そこで大手はどうなっているのだろうと思い調べると、「ビジョン」というものがあると。ただ、ピンとくるビジョンとピンとこないビジョンがあって「その違いは何なんだろう」と考えると、やっていることとビジョンのつながりが見えるものはピンとくる。つながっていないように感じるものは、ピンとこないんだなと。
自分たちがやっていることとつながっていないといけないし、いわゆるCSRではだめなんだと。社会貢献と事業とが一体となっていないものはピンとこないというのは、直観的にわかりました。では、「うちにとってそれは何なんだろう」と考えた時に、なかなか出てこなくて。そこからずっと考えて、本当に「降りてきた」としか言えないんですが、2007年にやっと定まったのが「日本の工芸を元気にする!」というビジョンです。
それが何で出たかというと、毎年取引先が2~3件廃業の挨拶に来られるんです。それがあまりにも続くので、「このまま行くと、うちのものづくりができなくなるんじゃないか」という危機感が出てきた。もう一つは自分の会社を立て直す中で、困っている会社がいっぱいあって潰れていくんだったら、「立て直すことができるかもしれない」と。単純に一消費者として、「こういうのが無くなるとさみしい。何とかなった方がいいよね」というこの3つの想いが重なってたどり着いたんだと、後から思います。それは、『WILL・CAN・MUST』の重なり合いだったんだなと。
言った以上はやらなきゃいけない。僕はピンとこないものを「張りぼてのビジョン」という呼び方をしているんですが、良いことは言っているけれどやっていることが全然伴っていないのは一番かっこ悪いですよね。じゃあ、「元気にするとは何なんだ」、「日本の工芸って何なんだ」というのを分解しました。
元気にするというのは、「経済的に自立すること」、「ものづくりに誇りを取り戻すこと」。日本の工芸というのは生活に必要なものを自分たちでつくっていたのが発祥なので、「暮らしの道具であること」、「手作業が入っていること」を工芸と捉えました。一般的には靴下を工芸とは言わないと思うんですが、実際に製造現場に行ってみると僕は工芸だと思うので、それも工芸に入れています。
― ―ビジョンを社内に浸透させるのは、大変だったんじゃないでしょうか?
中川政七氏:社内で反対は無かったです。ただ、最初に言った時は全員ぽかんとしていて、「何だそれは」、「そもそも意味がわからない」と。社員が「自分たちには関係ない」と思っていたところからスタートしました。僕がコンサルをやって立て直した波佐見焼の「マルヒロ」さんを呼んで、うちで話してもらってなんとなく「社長が一人でやったコンサルというのがあって、ある会社が元気になったんだね、よかったね。でも、私たちには関係ないね」というのが2010年ぐらいです。
いや、そうじゃないんだと。「マルヒロが元気になったのは、マルヒロのマグカップを日々店頭であなたが売ってくれたから元気になったんだよ。全部つながっていて、僕のスタンドプレイではない」ということをずっと言い続けて、それがやっとみんなの肌感覚として「私たちはそこに関わっている」と思えたのが2012年、2013年ぐらい。言い出してから5年ぐらいかかっているんですね。
今だとみんなそれのためにやっていると思ってくれていると、思います。例えで「大阪城の石垣の話」を腐るほど話しています。新店立ち上げの際にもスタッフに「あなたたちの仕事は、日々の売上をつくることではない。大切なことではあるけれど、日本の工芸を元気にするために、そのマグカップを売っているんだ」という話をし続けています。
言い続けて、後はやって見せる。「本気でやっているんだな」と社員、スタッフが感じられるように。張りぼてになっちゃいけないんですよね。「言っていることと、やっていることが違う」と思った瞬間に終わりなので。持続的にやるのは、覚悟ですよね。定着させるための機会を持つという意味では、年に一回「政七まつり」という場を設けて、全社員集まって「自分がこうしたい」、「自分が関われている」という気持ちが醸成されるようなワークショップや講演など側面的な活動をしています。