連帯や社会のリデザインで、
できることがまだまだある。
―――SIJがこれから目指すことを教えていただけますか?
マリコさん:新しいプロジェクトを生み出していく、インキュベーションに力を入れたいです。行動したくてモヤモヤしている人の活躍をサポートしたくて。そんな人達のスプリングボードになれるプラットフォームでありたいです。
ロビンさん:若者と話すと「どうせなら人や社会の為になる仕事をしたい」と思っている人がとても多いので、彼らのサポートもしたいです。新しい事業をサポートしてローンチさせたい。mymizuをひとつの事例として、こういったプロジェクトを増やしたいです。
マリコさん:起業のような大きなことでなくても、今の立場でできるアクションもサポートしたいです。イベントの常連の方が、自分の所属する会社でレジ袋を使わない運動を始めて、それをきっかけにレジ袋を使う人が社内にほとんどいなくなったそうです。全社的に社員にマイバックを配布したり、入社時にマイカップをプレゼントしたり、割と大きな会社ですが、1人の行動が大きなインパクトになった。こういった事例をもっと増やしていきたいです。
ロビンさん:平行して、行政や企業とのコラボレーションも増やしたいです。やはりリーチやインパクトがすごいので。お話した自然電力、神戸市に加えて、給水スポットとしてアウディやイケアにも協力してもらっています。
―――日本がSDGsの順位を上げるために必要なことはなにだと思いますか?
ロビンさん:SDGsといえば北欧が進んでいると言われますが、例えば江戸時代の日本社会は非常に循環型だったと言われます。新しいなにかを導入するよりも、もともとのやりかたを思いだし、そこからヒントを得る方が良いと思っています。
マリコさん:今は忘れられているけれど、「もったいない」という気持ちはみんなの中に残っているはずです。都会に住んでいると、ひとりの行動と、それが自然に与える影響が切り離されてしまいますよね。ゴミもすぐ視界から消えて、もったいないと気づく機会もなくなっている。それを考える余裕を持つことが必要なのかも。
―――「もったいない」に代表される、日本の循環型マインドを取り戻すにはどうすれば良いでしょうか。
マリコさん:個人的には自然と触れ合うことだと思います。SIJのメンバーはみんな自然が好き。自然電力、パタゴニアなど、環境に配慮している組織には自然好きな人が多い印象です。都会にいると自然と触れ合う機会が少ないですが、私は海が大好きなので、海が汚れていると本当に怒りを感じて、この活動に取り組む原動力にもなっています。自然に触れて現状を目にすれば、無視できる人は少ないんじゃないかな。先ほどの「Blue Planet 2」も、自然をきっかけに自分の行動を考えるテレビ番組ですが、日本は特にメディアの力が強いと思うので、メディアにも期待したいです。
ロビンさん:都会に住んでいると例えば鶏肉を買うときに、どこから来たどういったものかとかを考えるのは本当に難しい。このディスコネクションを解決すればかなり変わる気がします。そのために、消費の力も重要だと思っています。自然に興味がない人がいても、消費をしない人はほとんどいないので、そこに目を向けて、消費のスタイルをもっと工夫できると思う。消費行動にもっと意識的になることが大切です。
マリコさん:消費するときにどういった商品を選ぶかは、企業への投票です。正しい正しくないはないけれど、自分の価値観にあっているかは考えた方が良いと思う。これを意識すると、ほとんどの人にとって気候危機は無関係ではないから、環境負荷が低い商品を選ぶ人が増えるのではと思います。mymizuでは自分の行動と環境への影響を実感してもらうために、節約したペットボトルの数やCO2量を数値化していますが、まだまだ抽象的で「車を何キロ走らせるCO2を削減した」とか「北極の氷、何キロを溶かすCO2を削減した」とか、もっと具体化してより実感を持ってもらいたいと考えています。
ロビンさん:「自分の行動の可視化」として、「mymizuチャレンジ」という、mymizuアプリを使ったプラスチック削減やSDGsに対する企業や組織向け新サービスも企画中です。mymizuチャレンジでは、組織内などでチームを作り、各チームがそれぞれどのくらいペットボトルを削減できるかを競い合います。LIXILと実施した際は2,600人以上の従業員がチームを組み、1ヶ月間のチャレンジで富士山の標高の2倍に相当する、3万4,000本ものペットボトルの削減に成功しました。
企業、自治体、教育機関など、様々な団体が参加することで、個人では取り組みづらいペットボトル・CO2排出量削減のきっかけになれればと思います。チームで楽しみながら、サスティナビリティやSDGsの理解を共に深めていきたいです。
―――生活者がプラスチックを使いたくなくても、配送の過程などで過剰包装されてしまう場合がありますね。
ロビンさん:そういった場合サプライチェーンに問題があるわけですが、改善するためには企業とのコラボレーションが有効だと考えています。
マリコさん:企業が環境に良いことをしたくても、ビジネスとして成立させるマーケット規模がないことが課題です。そのマーケットには何人いるの?というところで話が止まってしまう。環境に対する取組みのメリットを感じてもらうために、mymizuユーザーを使ったテストマーケティングなどを企画しています。
また、規模が必要な場合、企業同士で連帯すると解決するケースがあります。例えばスポーツウェア業界では発展途上国の工場における児童労働が問題になっていました。でも今大手何社かが協力して、改善したようです。大企業が連携したからできたことです。さらに、お客さんとしっかりコミュニケーションをとることも大切。「結局、消費者が変わらないとなにもできない」と考えている企業も多いですが、丁寧な(丁寧すぎる)包装をやめる場合、自社のコストのためと思われるとリスクがあるけれど、「環境のために一緒にやりましょう」などとしっかり伝えれば、消費者は受け入れてくれるのではないでしょうか。前例や習慣を変えることはリスクをとらずに前例を待つ日本では難しいですが、どれだけ思い切ってできるかが問われていると思います。
グローバルな視点から、とても刺激的なお話をうかがえました。確かに新しいビジネスや優れた課題解決法には、連携さえすれば、新しい考え方を見つけさえすれば解決できたのに、なんで今までなかったのか、と思うものがよくあります。マリコさんが言うように、日本社会では課題を解決できるものと思わず、「触れない方がいい」と考える風潮があるかもしれません……。でも人材や技術も揃っているので、習慣さえ変われば課題もどんどん解決されそうです!取材は新型コロナウィルスの流行が本格化する前に行いましたが、緊急事態宣言期間中も、イベント等をオンラインに切り替えたことで、全国各地や海外など、普段東京では出会えない人々ともつながり、新たなチャンスが生まれているそうです。また、家にいる間に自分の生活を見つめなおし、サスティナビリティに興味を持つ人が増えているとのこと。この経験を無駄にせずに、よりよい社会をつくるきっかけにしたいですね。