Rashii

「よなよなエール」でノーベル平和賞を目指す?

ヤッホーさん、みんな忙しいから
自分達でファンイベントやるよ

ファンがヤッホーブルーイングのスタッフをゲストに招いてのイベント ファンがヤッホーブルーイングのスタッフをゲストに招いてのイベント

―――ファンが主催のイベントについて経緯など教えてください

当時、われわれがイベントをやると、ちっちゃな会社だったので、そんなしょっちゅうできなかった。その前は100人ぐらいのイベントをやっていたんですけど、100人ぐらいだと10秒ぐらいでチケットがソールドアウトしちゃって。いつまでたっても参加できない人が多いので、最近はだんだん大きくなって、一昨年5000人のファンイベントが一番大きくて、去年は1万人のイベントやろうと思ったら台風で中止になっちゃった。5000人のイベントをやろうとすると、年に1回とか2回ぐらいしかできない。ファンとしては「次半年後、1年後だと寂しい」「もっと頻度高くやりたい」と。「ヤッホーさん、みんな忙しいから、ファンが作るファンのためのイベントやるよ」と―。そんな形で、ここ2、3年は、ファンの方たちが自分たちで主催して、ゲストにうちの社員を呼んでくれてイベントが起きるようになっています。

―――そういうファンがイベントをつくることや、デザインもとてもおしゃれな独特なところ、でも、なんか肩に力が入ってなくてというような、そういう世界観はどのようにつくられたのでしょうか?

まず、創業者の星野の知識や、独特の考えや、個性とか好みが、始まりです。当然、私と彼は共感する部分も多いですけど、違う人間なので、常に彼が求めることをやっていったら、やっぱりそれはうまくいかないと思った。私が、社長でありながらクリエイティブの責任者を受け継いでいるので、私のカラーに少しずつしていかないと。それを進化させて具体的なガイドラインみたいなものを、がちがちではないんですけど少しずつ作っています。例えば、「よなよなエール」を中心に主要ブランドの製品の基準は、9つのクリエイティブ要素というのをつくりました。親しみやすさとか、プレミアム感とか、アート性とか、個性とか、そういう言葉で9つ表していったんです。例えば「よなよなエール」には和というものがあるんですね。花札をモチーフにしているので和的な感じはあるんですけども、コテコテの和にする必要はない。ただ、和の要素が少なくてもいいけど、和から反しては駄目だと。例えば、イタリアンみたいなデザインは駄目だし、タイの雰囲気も駄目だと。そんなふうにだんだん明文化していって、事例を踏まえみんなに共有して、ブランディングに関して進化させている状況です。

自分たちでやっていけば
ますます独特になるし、速くなる

ヤッホーブルーイングの多様な人材 ヤッホーブルーイングの多様な人材

―――クリエイティブやマーケティングはすべて自社内で行われているのですか?

もともとは、ちっちゃな会社でお金がなかったから、全部、自分たちでやるしかなかったというのが正直なところです。私は社員20人ぐらいのときに社長を引き継いで、クリエイティブな社員なんかもいないし、でも代理店にお願いするにもお金がないから、全部、自分でネーミングからデザインから考えてやらないといけなかった。それをやっていくうちに、だんだん知見が増えていくわけです。トライアンドエラーでうまくいくようになってきて、そうすると、自分たちでやっているから速いし、結果的に独特なものになった。ガラパゴス諸島でずっと育っていった珍しい生き物みたいな(笑)。最初からそれを狙ったわけじゃないですけど。またそうやっていると結果ますます外部を使えなくなるんですよね。外部の人から見るとおそらく意味が分からない。結果的に振り返ってみると、われわれは全部、自分たちでやったので、クリエイティブに関する力がものすごくついていて、評価されるようになって、そういうものを求めているスタッフがだんだん増えていくという、そんないい循環になってきています。

今はデジタルマーケティングだろうが、ブランディングだろうが、統合型マーケティングとして全員で同じことをやっています。そのうち、だんだん自分の興味とか、今も若干、出てきてるんですが、この人は、そうはいってもこっち分野が得意だなとか、この人はこっち分野が得意だなというカラーが出てきてるんで、全部みんなでやりながら、だんだん得意なほうにシフトさせていきたいなと思っています。大変で時間もかかりますけど。

革新的行動、個性的な味、
つくり手の顔が見える

スタッフとお客様がつながる スタッフとお客様がつながる

―――ブランドの規模はどのようにお考えですか?
スモールマスという考え方など、大きさをどのようにとらえていますか?

将来的な規模感の制限はないと思っています。ただ現時点でいくと、まだ小さな会社なので、中には希少性とか、そういうところで気に入っていただいている方とかもいらっしゃるし、現在、確かにまだ企業体力がないので、日本全国に何かやるとかっていうところはまだ無理です。的を絞って開発したりプロモーションをしたりっていうのは、現段階ではやっているんですけども、これで同じようにやりながら、別にマスを向くつもりはないんですけども、同じことをずっともっと精度良く長いこと、あの手この手でやっていくと、結果的にそれがマスに受けるってこともあると思っているので、規模感は考えていないです。

熱狂的ファンが増え続けている 熱狂的ファンが増え続けている

例えを言うと、「これ、おまえ笑われるから、そんな話をするな」と、昔、星野から言われたことがありますが、僕は相変わらず言っているんですけど、例えば、アップルって、僕らが創業した97年に、1回、ジョブズが追放されて戻ってきたときには瀕死の状態。あのときは本当に、Mac好きが珍しいからとか希少性とかこだわりがあるから好きであって、ニッチな存在だったはずです。でも結局それから今20年たって世界一になっている。はたしてそのときに彼らがマスを向いてやっていたかっていうと、違うと思うんです。彼らは、彼らの独特な、なかなかまねされにくいような革命的なことをやって、その結果、支持する人が多くなった。この20年のうちにジョブズがマスを向いて一般的になったかというと、そうじゃない。やっぱりアップルとその他のメーカーは全く違うと思うんですよね。大胆にもアップルとヤッホーブルーイングの通じるところで、三つ、大事にしているところがあるんですよ。一つは、われわれ、革新的な行動をしようとしています。それはビールだけじゃなくて、プロモーションから組織文化から、いろんなことを革新的なことをやっていくと、ここのすごさを感じてくれるんじゃないか。僕は、アップルなんかもそうだと。二つ目は、僕らはビールなので、ビールの味が個性的であること。アップルの製品、個性的ですよね。特にデザインっていうのは、派手さはないんだけど、あの洗練された感じっていうのはかなりこだわっている。うちはビールなんで、味に個性があると。最後に、顔が見えるということ。誰がつくっているか分からないような、例えばスマホがいろいろたくさんありますが、今はもうお亡くなりになりましたけど、やっぱりiPhone見るとジョブズの顔が浮かぶ。ほかのスマホでは浮かびませんよね。うちのスタッフも、僕だけに頼っちゃいけないと思うので、いろんなスタッフが顔を外に出していて、どういう人がつくっているのか、つくり手と商品がひも付く。革新的行動、個性的な味、つくり手の顔が見える、これがあれば、アップルのように世界一番になっても、われわれのブランドは棄損されることはない、ファンは付いてきてくれると思っています。世界一の企業に例えて申し訳ないんですけど、いつもそう思ってます。

ファンとの絆や、自分たちで取り組んでいるマーケティング、ブランディングの考え方をお聞きしていくと、ヤッホーブルーイングというブランドが、とても人間らしいブランドであることが理解できます。ファンとの絆、自らのクリエイティビティを活用して、自らの手でブランドを育てていること、その個性を生かしていくことで、さらに大きなブランドにしようとしていることが「人間らしさ」につながっているのだと思います。ヤッホーブルーイングの創出する社会価値は何なのか?さらに掘り下げて聞いていきます。
次に続きます。

  • facebook
  • twitter
  • line