日本企業は、パーパスのような考え方を昔から持っていた。
―――日本企業にはもともと「三方良し」という考え方がありますよね。「商売において売り手と買い手が満足するのは当然。社会に貢献できてこそよい商売。」という考え方です。パーパスを「社会的存在意義」と捉えると、日本に昔からあったこのような考え方と近いようにも感じるのですが、どう思われますか。
齊藤氏:おっしゃる通り、日本企業はパーパスのような考え方を昔から持っていたと思います。それこそ、松下幸之助さんや稲森和夫さんなどが、理念経営をされていますし。ただ、その考え方を今の時代に合わせてアップデートすることはすごく重要で、今の時代に生きている人たちに何が響くのか、を考える必要があると思っています。
松下さん、稲盛さんの時代は、それまであまり豊かではなかった日本がまさに豊かになっていくという、そのような中で右肩上がりに成長した時代であったと思います。
一方で今は、モノはあるし、わりと豊かで成熟しきった社会の中で、「では、次に自分たちは何が欲しいのか」とか、「何のために働くのか」、…それこそが「パーパス」であると思いますが…、それが必要になっている。そこが少し違うのかな、とは思いますね。
―――確かに、高度経済成長期と今では社会背景が違いますね。齊藤さんは、今の社会をどのように捉えていらっしゃいますか。
齊藤氏:広告会社にいた時に、「これからはあらゆるものがメディアになる。だから、個人が企業と対等に何かできるようになっていくはず」と感じていました。デジタル化が進んだことで今やその状態はさらに加速し、価値観も変化してきている。その価値観の変化の中で、個人の力が試される社会になりつつあると感じます。
今後も大きな企業は残っていくと思いますが、その中でも、個人として立っている人しか生き残れない。会社にしがみついていくような生き方をするのは、今後は難しいのではないか、と思っています。
―――立っていられるような状態でいるためには、具体的にどのようなことが必要だとお考えになっていますか。
齊藤氏:個人の存在理由、つまり志が重要だと思います。すなわち「自分が生きる意義、働く意義」はなんなのか。そこを追求することが、この不確実性の時代で重要だと思います。
そのような、個人の存在理由が明確になってくると「○○の仕事は□□さんにお願いしよう」などというように、自らのブランド化が進み、個人で立てるようになる。そのような人が増えることが、最終的には会社のブランド価値にもつながっていくのではないか、と考えています。
これからは「何をするか」より「何のためにやるか」
―――企業活動自体も、会社名や業態ではなく、ミッションやパーパスが推進力となり、いわゆる「パーパス・ドリブン」な方向になっていくのでは、と思っています。そのあたりについてどのようにお考えですか。
齊藤氏:おっしゃるとおりで、例えば水を売っている会社も、今後は「人々を健康にするための会社で、その手段の1つが水である」というような形に変わっていくと考えています。だから、もしかするとその会社は10年後には全く違う事業をしているかもしれません。「何をするか」より「何のためにやるか」が重要になるということですね。
特に、若い人たち、ミレニアル世代以下の人たちはそうでないと動かないです。彼らは、経済破綻などを見てきている中で、信じられるものは何か、拠り所は何かというのを求めていて、大きい会社だから素晴らしい、とは全く思っていません。
だからこそ、今を生きる若者は「自分には何が大切か」、「何が自分にできるか」ということが、購買や就職などについての判断基準になりつつある。そういった意味でも「パーパス・ドリブン」な企業活動は増えていくのではないかと思います。
―――御社が以前書かれた記事を拝見したのですが、その中で、パーパスの中には「志」という意味も入っている、と書かれていました。「自分には何が大切か」という考えは「志」と近いと思いますが、パーパスと志について、詳しくお聞かせいただけますか。
青山氏:パーパスは、3つの構成要素に分解できるんです。それは「強み」「ニーズ」「情熱」で、その3つが重なったところに存在理由があると言われています。
実は、「強み」と「ニーズ」の合致は、従来のマーケティングで言われてきたことなんです。でも、その2つが合致する企業は沢山ある。その中で抜き出るために必要なのはまさに「情熱」、つまり「自分は何がしたいのか」ということだと思っていて、これはつまり「志」だと我々は考えます。
実は日本企業は、昔からパーパスに近い経営の考え方を実践していて、それを今の時代にアップデートしたものが「パーパス」であるという考え方は非常に興味深いものでした。これからの社会で生きていくためには、企業だけでなく個人にもパーパス(志)が必要になるであろうというお話は、パーパスが、企業のブランディング・マーケティング担当者に限らず、今後は全てのビジネスパーソンにとって必要になる考えであることを表していると思います。次回は、パーパス設定の具体的なプロセスや注意点について深掘りします。