その企業にしかないものが
本当にない限り生き残れない。
―――SDGsやESGの観点から企業がブランディングやマーケティングでパーパスに注目していますが、その理由は何だと思われますか?
伊吹氏:社会が変わってきたことで、パーパスブランディングが機能するようになってきました。社会的な意義が消費者の共感を呼びやすい環境になってきていると思います。一方で組織の中でも「(財務目標のみの管理では)何かが足りない」と思いはじめています。「パーパスのような社会的な意義が加わることで、従業員の経営方針などへの共感が得られるのではないか」ということを、経営者の方々も気づきはじめているのかもしれません。
古西氏:それに加えて世の中の様々な業界・業種が成熟して行く過程で企業同士が競争する時にどういう企業が生き残っていくのか。それは「本当にそこにしかない価値」、「唯一無二のものを提供できている」企業です。同業他社と比較して、相対的に「うちはここが便利です。」「うちにはこんな機能もあります」といったアピールで提供価値を高め続けていくのは、もう限界にきていると思います。これからはより、社会から見てその企業にしかない価値は何なのか、そこにフォーカスがあたってきているんじゃないでしょうか。
―――経営や事業にパーパスを入れ込んでやっていくことで、どのような効果があるのでしょうか。
古西氏:企業としての存在意義・提供価値に対して、社員が自分個人としての価値観や存在意義と重なる部分を見出せるかどうか、ここがポイントになってきます。その重なった部分があることで、社員は自分のパーパスを満たし(つまり会社の方針に共感をしている状態となり)、仕事にやりがいを感じられます。そうなると、本人は幸せであり、組織としてもマネジメントもしやすくなります。
このあたりは、うまくマネジメントできていない企業の方が多いので、大抵は短期的なわかりやすい目標に対してドライブをかけて向かわせますよね。でも、今の若い世代はそれだけではついてこない方も多いですし、会社のビジョンや提供価値に共感できないと辞めていく方も出てきます。
自社のこのビジネスは「何のためにやっているのか?」、社員一人一人の価値観とどれだけ共鳴させられるのかが、会社全体のマネジメントという意味でも、今まで以上に大切になってきていると思います。
―――若い人は敏感ですよね。
伊吹氏:サステナビリティ経営が発展してきた背景の一つに、ミレニアル世代の意識があると言われています。リクルーティングや優秀な人材のつなぎ止め、まさにコーポレートブランディングの観点でもパーパスを再定義して、経営をしていくということの重要性が増しているように思います。
古西氏:今40歳以上でマネジメントをやられている方たちは、会社が今ほど大きくない時代に入社されて、会社からの指示・期待に応えて一生懸命やってこられました。その結果、会社が成長し、自分のポジションが上がり、また期待に応えて頑張る、というサイクルです。
そんな方々にも、個人としてのビジョンや理念にフォーカスをあてて丁寧に掘り下げていくと、「自分には本当はこういう想いやビジョンがあった」、「こんな価値観がある」ということに気づかれます。ただ、これまでは会社や上司からの期待に応えて頑張る、というドライブできているので、自分の価値観やwant/willによるドライブには急にはなりません。でも、もう少し若い世代になってくると待遇やポジションというよりも、自分の価値観やwant/willを大事にして仕事をしたいというのをよく感じます。
―――やはり会社は上の人が変わらないと変わらないですよね。そうすると組織が変わるには、時間がかかりますね。
古西氏:そうですね。マネジメント層の影響は大きいと思います。組織を変えていくには、ボトムアップ、トップダウンいろいろなやり方がありますが、その年限りのタスクフォースのような活動や、単発のイベントに取り組んだとしても、結局その場・その時限りのものであり、組織が本当に変わるには、日常が変わり、習慣が変わらないと、本当の意味での変化にはなり得ません。
社長から現場社員まで、上司と部下での日常のコミュニケーションや意思決定の仕方を、パーパスを意識したものにしていかないと、変化は持続しません。お客様からのご相談では、「パーパスさえ使えば、特効薬の如く、経営からのメッセージに共感しない風土・社員を変えていけるんじゃないか」「全ての問題を解決してくれるんじゃないか」と淡い期待を持たれますがそんなうまい話はありません。
伊吹氏:僕のパーパス、私のパーパスを語れるかどうか?ということですよね。パーパスを共有しあっていると組織として力を持つということなので、普段からパーパスを問われるといいなと思います。普段は、あまり問われることがないですが、これからは当たり前に問われる社会になっていく時代なのではないかと思います。
自分のパーパスを、どう描くか。
―――企業としてパーパスを掲げるというのもありますが、一人ひとりの個人がパーパスを語れるようにしないと本質的には変わらないということですね。
古西氏・伊吹氏:そうですね。
伊吹氏:組織のパーパスと自分のパーパスとが重なることで、組織としての行動に共感が生まれますよね。
古西氏:自分事で見出し、言語化したパーパスが無いと、組織で用意されたものに対して追従することしかできません。自分のパーパスを本気で考えたことがない人にとって、組織のパーパスが降ってきても、それは単なる業務命令と変わらない。自分のwant/willではなく、mustで従わなくてはならないものとなる。自分のパーパスを言語化して大切にしている人だからこそ、組織におけるパーパスを扱うことの大切さもよくわかります。
会社員として雇用されている方の場合、自分のパーパスが明確に意識化・言語化できてない方がほとんどです。自分のものが明確でない場合、会社のパーパスと自分のパーパスが重なっているかどうかなんて、はっきりとはわからないものです。会社の方針に合う・合わない、会社のパーパスに納得する・しないの前に、まずは立ち止まって自分の価値観・パーパスを意識化・言語化することが大切です。何かしら理由があって自分の会社に入ってきたのですから、きちんと自分と向き合えば大抵は重なりが見出せるはずです。どうしても見出せない方は、遅かれ早かれ転職されると思います。
―――組織のパーパスと重なる部分はありながら、個人が持つパーパスは多様な方がいいでしょうか?
古西氏:まさに会社として「何を大切にするか」だと思います。社員の多様性を活かす経営ができる方であれば、絶対そちらの方が会社としての価値や幅は広がると思います。ただ、うまくマネジメントしないと、多様性の価値を活かしきれずに逆効果となってしまうでしょう。
数年前から「ティール型組織」という、多様性に着目をしたマネジメント論がよく取り上げられていますが、多様性マネジメントにおいては個々人のパーパスや価値観の相互理解が大切になってきます。相互理解が出来ていて関係性が良いと、組織としての一体感、協力関係、仕事のスピードのいずれも向上すると思います。
――「何のために今の仕事をしているのか?」「組織と個人のパーパスは重なっているかどうか?」個人のパーパスを語れる人がどれぐらいいるでしょうか。お二人の言葉は、自分自身のパーパスを磨き直すヒントになると思います。次回はパーパスの言葉の選び方についてお聞きしました。