山本CEOが水産業界を変えると決心するきっかけになったサンマ。
― ―漁師の方との出会いから水産での起業を決心され、フーディソンを立ち上げられましたが、当時水産の課題についてどう感じられましたか。
あまり魚のことを知らなかった自分も、スーパーでサンマが1尾100円で売られていることは知っていました。誰かが必ず持って来てくれてスーパーに並んで、食べたいときに食べられる。その当たり前だと思っていたものが、実は漁師さんが仕事を辞めたいレベルになっていて、「もう担えません」と言っているのが衝撃でした。「息子にも継ぎません」と。
その当時、私自身もちょうど子どもが生まれたタイミングで、次の世代のことを真剣に考えるようになっていたんです。もしかしたら私が好きなサンマを子どもたちが食べられなくなるかもしれない、と想像すると自分の子ども、日本の子どもに関係する問題だと。産地側でも「担いません」と言うぐらいまで儲からなくなっている。その課題の深刻さがわかりました。
だから、今自分が動くことで、その状況を変えられたら素晴らしいと勝手に思ったんです。しかも魚に関係がなく、海無し県埼玉出身の自分が水産を変えられるとしたら、私自身も関わった人たちも勇気が出るだろうし、「こうやって世の中は変えられるんだ」という周囲の人たちのチャレンジへの動機付けにもなるかもしれない。そう考えると意味のあることだと思いました。
私自身プランをじっくり練るよりまずはじめてみるというタイプで、水産関係の会社にアポイントを取って会いに行ったり、スーパーの方や築地の市場の社長さんに話を聞きに行くことをはじめました。今思うと無礼ですが「将来市場は無くなると思うんですけど、私の仮説どうですか?」と市場の人に聞いたり。
いろいろな方の話を聞いて知っていくうちに、「指揮者のいないオーケストラ」みたいな状態になっていると思いました。市場の人も漁師さんもそれぞれがんばって動いてはいるけれど、統一してこういう風に良くしていこうというのを誰もやっていなかった。国も解決策を提示できないし、みんな問題があることはわかっているけれど「ぼく一人じゃ何ともできないんだよね」と。それはそうですよね、魚はみんなの協力で一尾が流れていきますから。一人で何とかしようとしても無理なんですけど、ネットの世界では当たり前になっている「買いたい人と売りたい人が直接つながって」ということがまったくされていなかった。
狭い範囲の市場で価格を決定して、そこで魚を買った人が次は築地で魚を売り、築地で買った人は築地内で商売をして、というのを繰り返さないといけない「生もの」という事情もありました。調味料のように規格品で出てこないので、一尾一尾の魚が個別で違う。だから、人が目で見て「これは100円」と決めるのが、昔は効率が良かったという背景があって、IT化されない素地があったんです。ですが、手元で写真が撮れてそれを北海道と九州でつながることが当たり前の世界になり、スマホの普及やIoT、インフラが変わってきて、もしかしたら水産が変わる条件が整ってきたんじゃないかと感じました。
魚屋、仲卸といったプレイヤーをやりながら、IT化していくのがフーディソン流。
労働人口減少の問題もありますよね。昔は市場でも担い手がたくさんいました。でも、ホワイトカラーの採用も難しくなっている今3K的な仕事での採用はこれからもっと大変になります。今まで人の手を介してしていた仕事を何らか変えていかないと、流通や魚の問題ではなく、担い手の問題で魚が流れなくなる。その現実が肉薄してきているわけです。
もう一つは法令です。「中央卸売市場法」で市場は守られていて、誰と誰が取引しなさいというのが決まっていた。その法令が改正され施行されていくんですが、規制が少し緩くなり、ルールがある程度自由になっていきます。ITを入れることで情報化されたものが直接つながり、大きく流通自体が変わる可能性があると思います。
ITを入れるのは半端ではなく難しいのではないかと思っていましたが、想像以上に難しくてちょっとずつ進んでいるところです。今まで水産業界がIT化されなかった理由というのが、中のプレイヤーがIT化するという発想を持っていなかった。もしくは、持っていたとしても社員を多く抱えていたり、労働組合が強くて販管費の効率化ができないなど構造的な理由があって変わってこなかったんですね。
私たちはIT化していくのは前提でしたが、社員の誰も適したシステムが何かはわかっていなかった。過去にチャレンジしていたものがあれば、それを変えたり安価にするなどできましたが、それがない。まずは、IT化しないといけない要件を自分たちで決めようと。プレイヤーをやり、魚屋をやり、仲卸をやって、やりながら変えられるところはどんどんIT化していく。プレイヤーをやりながらIT化を担いますというのが、私たちのアプローチの仕方です。いきなりシステムをつくって「はいどうぞ」と言っても、誰も使ってくれませんから。
協力してくれる多くの仲卸、産地の人たちと業界の再編を目指す。
― ―新しいことにチャレンジしようとすると、中からの反発があったり立ちはだかる壁があったりしたと思いますが、そこをどう乗り越えられたのでしょうか。
このまま行ったらジリ貧になるのは、誰もがわかっていますよね。ですので、今より良くなるプランがあればみなさん協力してくださる。多くの仲卸さんが私たちとつながってくださいますし、産地の方もご協力いただける。一緒にやっていこうという会社には、基本的にウェルカムですよね。
システムだけで解決することならいいですけど、システムで売り買いが決まったらモノがやっと動き出す。誰かの手によって魚が運ばれ、届けられるという物流があるのは重たい話なんです。だから、今担われている方と「一緒にどう再編していくか」というのを考えた方が良い。全部つぶしてつくり変えるのではなくて、今担われている役割を再定義し直すのが近いと思います。
重要なのは、ソフトウェアが旧態依然になってしまっていてサービス品質に関係していること。たくさんの人を介しているうちに魚の品質が劣化してしまうとか、時間が経ってしまうとか、途中で情報が抜け落ちてしまうことがあって消費者のニーズを満たせないのであれば、流通のソフトウェアはシステム化しましょうよと。魚を運ぶ役割、機能自体は無くならないので、役割を再定義してプラットフォームに落とし込んでいくことをやろうとしています。
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山本 徹 (やまもと とおる)
株式会社フーディソン 代表取締役CEO北海道大学工学部卒業。不動産デベロッパーに入社。株式会社エス・エム・エスに創業メンバーとして参画し取締役に就任。ゼロからIPO後の成長フェーズまで人材事業のマネジメント、新規事業開発に携わる。2013年フーディソン創業、代表取締役CEOに就任。